パート6: 吸収後の変化と情報
呆然としたまま、どれくらいの時間が経っただろうか。
ようやく少しだけ冷静さを取り戻し、俺は自分の体に意識を集中させた。さっきの激闘(?)で何か変化はあっただろうか。
(ん……? なんか、少しだけ……)
気のせいかもしれないレベルだが、体がほんのわずかに大きくなったような、密度が増したような感覚があった。プルプル感は健在だが、心なしか弾力が増したような……?
確信は持てない。なにせ比較対象がないのだから。
ただ、さっきダンジョンクリーパーを取り込んだことで、何らかの変化が起きたことは間違いなさそうだった。
その時、また奇妙な感覚があった。
頭の中に、直接響くような、声とも違う、情報のようなものが流れ込んできたのだ。
『……キル……【キュウシュウ】……カクトク……』
ノイズ混じりの、途切れ途切れの無機質な感覚。
まるで壊れたラジオか、バグったゲームのシステムメッセージのようだ。
(なんだ? 今の……スキル? きゅうしゅう?)
吸収。さっき俺がやったことか?
やはりこれは、何らかの特殊能力らしい。
そう思った瞬間、さらに別の感覚が流れ込んできた。それはさっきの無機質なものとは違い、もっと生々しいイメージの断片だった。
(これは……さっきの蟲の……記憶、なのか?)
ダンジョンクリーパーが見ていた景色、感じていた匂い、本能的な行動原理のようなもの。この洞窟のどこに水場があるか、どんな獲物を好むか、逆にどんな敵を警戒していたか……そういった情報が、断片的に、だが確かに俺の中に流れ込んでくる。
まるで、他人の記憶を垣間見ているような、奇妙で少し不快な感覚だ。
(でも、これは……使えるかもしれない)
この【吸収】という能力。
敵を倒せるだけでなく、その敵が持っていた情報まで手に入れられる?
もしそうだとしたら、このクソみたいなダンジョンで生き抜くための、とんでもない武器になるかもしれない。
最弱のスライムである俺が、他の魔物と渡り合うための唯一の希望。
期待が胸を膨らませる。
だが同時に、得体のしれない能力への根源的な不安も消えなかった。
敵を取り込み、その記憶まで得るなんて、あまりにも異質だ。これを使い続けたとして、俺は俺のままでいられるのだろうか? 取り込んだ何かに、精神を乗っ取られたりしないだろうか?
(……考えていても仕方ないか)
今は、生き残ることが最優先だ。
使えるものは、何でも使うしかない。たとえそれが、どんなに気味の悪い能力だったとしても。
俺は、この【吸収】能力を使いこなし、情報を集め、少しでも安全な場所を見つけ出すことを決意した。
不安はある。だが、絶望の中に差し込んだ、ほんのわずかな光に賭けてみるしかなかった。
まずは、もう一度【吸収】を試してみるべきか?
俺は周囲を見回し、手頃な獲物……いや、吸収対象を探し始めた。
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