パート4: 生きたい! 本能の叫び

死が、すぐそこまで迫っていた。

ダンジョンクリーパーの鎌が振り下ろされる、その刹那。

絶望の淵で、不意に、心の奥底から燃え上がるような強い感情が湧き上がった。


(嫌だ……!)


死にたくない。

こんなところで、こんな無様に、虫けらに食われて終わりたくない!

前世で、あれだけ理不尽な思いをして、挙句に過労死(たぶん)して、それで終わりだと思っていた。なのに、気づけばスライムなんかに転生して、またしても一方的に命を奪われる?

ふざけるな!


(生きたい!)


理由は分からない。目的もない。

でも、ただ、生きたい。この不条理な状況に、抗いたい。

その本能的な叫びが、麻痺していた俺の体を突き動かした。


「―――ッ!!」


声にならない声で叫びながら、俺は最後の力を振り絞った。

全身の細胞(?)を総動員し、全力で地面を蹴る!


にゅるんっ!


我ながら驚くほどの瞬発力(当社比)で、俺の体は横に跳ねた。

ダンジョンクリーパーの振り下ろされた鎌が、俺がほんの数秒前までいた場所の地面を抉る。ガキン!と硬い音が響いた。

間一髪!


(やった! かわした!)


束の間の安堵。だが、すぐに現実に引き戻される。

ダンジョンクリーパーは、獲物を逃したことに気づき、複数の赤い目をギョロリと動かして再び俺を捉えた。そして、先ほどよりも素早い動きで追撃してくる。


カサカサカサッ!


(まずい!)


俺は必死に体をくねらせ、逃げる。

遅い。遅すぎる。

あっという間に距離を詰められ、ドンッ、と背後の壁に体を打ち付けられた。

行き止まりだ。

もう、どこにも逃げ場はない。


ダンジョンクリーパーが、再び鎌を振り上げる。

今度こそ、終わりだ。

さっきの生存本能の爆発も、ほんの一瞬の延命にしかならなかった。

なす術なく、迫りくる死を見つめる。


その、攻撃が俺の体に届こうかという瞬間。

恐怖の極致で、俺の体(あるいは魂)が、生き残るための最後の悪あがきを始めた。

もはや理性的な思考はない。

ただ、この脅威を排除したい、生き延びたいという本能だけが、俺を突き動かしていた。


俺は、自らダンジョンクリーパーに向かって、体当たりするかのように、そのプルプルの体をぶつけていった。

意味のない抵抗だと分かっていながら。

それが、俺にできる唯一のことだったから。

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