「過激な仕掛け人」が様々な異世界の猛者を集め「IWGP(異世界ワールドグランプリ)」を開催した件

どろ

第1話

 その男、年は取っているものの、目つきは鋭く、どこか挑戦的。

 自信に満ち溢れた雰囲気を漂わせています。

 年は……そうですねえ、たぶん七十代くらいでしょうか。


 男は、状況が飲み込めないのか、キョロキョロと辺りを見回し、やがて眉間に皺を寄せました。


「……なんだここは?おい、説明しろ!これは何の仕掛けアングルだ?記者はどうした?」


* * *


 あるところに、それはそれは豊かな楽園世界がありました。


 名をエデンディア。


 エデンディアは本当に素晴らしい世界。


 空はいつも青く輝き、大地には豊かな恵みが溢れています。


 エネルギー問題も人口問題も人種問題も、ぜーんぶ昔の偉い人たちが解決してくれたおかげで、永遠とも思える平和な日々が続いておりました。


 そんな素晴らしいエデンディアを、形だけ治めているのが、最高評議会議長のポルポロン三世さま。


 長い白髭を蓄え、ふくよかなお腹をした、見た目だけは大変立派な、それはそれは善良なおじいさんでした。


 人々は親しみを込めて、彼の事を「議長じい」と呼んでおりました。


 議長じいは、今日も今日とて、豪華な執務室のふかふか椅子に座り、うとうとと船を漕いでおりました。


 平和というのは実に良いものです。

 何もすることがない。

 何も考える必要がない。

 ただ、美味しいお菓子を食べて、お昼寝をしていれば、一日が過ぎていくのですから。


「議長、大変でございます!」


 部下の役人が、慌てた様子で部屋に飛び込んできました。


「なんじゃ、騒々しい。わしは今、世界の平和について深い瞑想をしておったところじゃぞ」


 嘘です。完全に寝ていました。


「また異邦者が!南のゲートから数十人規模で!」


「ほう、それはお困りであろうな。よし、担当の者に任せるとしよう。わしはもう一眠り……」


「そういうわけにはまいりません!もう各地の収容施設は満杯です!このままでは、エデンディアの秩序が…!」


 そうなのです。

 この平和なエデンディアにも、一つだけ、悩みの種がありました。


 少し前から、世界のあちこちに「ゲート」と呼ばれる不思議な穴が開き、そこから「異邦者」と呼ばれる人々が、次から次へとやって来るようになったのです。


 彼らは、自分たちの世界が戦争や貧困で大変だから、この楽園に移住したい、と口々に言います。


 エデンディアの住人は皆優しいので、困っている人を見ると助けてあげたくなります。


 でも、あまりに多くの異邦者が来ると、この平和な世界が、昔のようなゴチャゴチャした世界に戻ってしまうかもしれない。


 それは困る。

 非常に困る。


「うーむ、マジで困ったのう……」


 議長じいは、長い白髭を撫でながら、難しい顔をしました。

 面倒なことは大嫌いです。


「して、どうすれば良いのじゃ?わしには、さっぱり分からんぞい」


 始まった。議長じいの得意技、他人任せ。


「ですから、サミットを開き、皆様で話し合っていただかねば……!」


「サミット……。面倒じゃのう……。まあ、それなら、誰か適任者に議長を代わってもらうのが一番じゃ。わしももう歳じゃし……」


「議長!!」


 平和すぎる楽園に、ほんの小さな、しかし無視できない波紋が広がっていました。

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