１日目

「いってらっしゃい、怪我しない様に気を付けてね。」

「あぁ。」

玄関で靴を履くために、しゃがんでいる北見信一（きたみ　しんいち）に

私、桜井綾子（さくらい　あやこ）は、彼の背中ごしに声をかけた。

信一は、３日ぶんの着替えが入っているボストンバックを肩に担ぐと立ち上がり、　玄関のドアノブに手をかけていたが、私は信一の服の裾をつかみ、

「信一、忘れ物だよ。」

と言うと、振り返った彼に軽く唇を重ねた。

信一は、驚くわけでもなく、ふっと笑うと

「いってくる。」

と私の頭をひと撫でして、ドアの向こうに消えた。

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