最強でもなく、最弱でもない、そんな私じゃダメですか?

ぽぬぽぬのたや

3800 0009 ∧ 3800 0010

 人気のない駅構内に人影が二つ。

 背丈はほぼ同じ、腰くらいまである黒髪の少女たち。

 肩出しの、フリルの付いた白ブラウスにリボンタイ。ハイウエストのスカートの裾には、こちらもフリルが付いている。そしてレースのニーソックスにローファー。整った顔立ちも相まって、清楚系のアイドルといわれてもおかしくない、二人はそんな風貌だった。

 しかし日はまだ高いというのに、二人以外の人の姿がない。

 会話もなく、カツカツと、ただ二人の足音だけが構内にこだまする。

 やがて階段まで辿り着き、二人は駅上層へと抜けていった。

 駅の上層は吹き抜けになっており、さらにいくつかの階層に分かれていた。各階層をつなぐエスカレータも存在していたが、そのどれもが機能を停止している。

 アーチ状の壁と天井は、十字の格子とガラスで覆われており、吹き抜けと併せて解放感のある造りになっていた。

 ただ、上層にも人の気配はなく、逆にその広々とした空間に寂寥を覚える。

 すでに目的地が決まっているのか、アイコンタクトすらなく、二人はさらに歩を進めていった。

 アイドルのような風貌とは裏腹に、可憐ではあるものの彼女たちの顔には表情や感情がなかった。ただ無表情、というより生きているのか死んでいるのかわからないような、生気のない面持ちをしている。

 いくらか歩いたところで、それに初めて変化が見られた。

 後方を歩いていた少女の眉が動き、天井を指さす。

 ボォッ、と油に火を注いだような勢いで天井付近の虚空が燃えた。

 炎はしかし、発散することなく逆に収束していき、燃えたままで球のような形をつくり、そして――

 少女たち目がけて射出されていた。

――仮想実行シミュレート・魔術耐性大剣

 迫る火球に焦ることなく、前方の少女が拳を振り下ろす。

――事象具現リアライズ

 振り下ろされた拳には、彼女の身長ほどもある黒々とした長大な大剣が握られていた。

 壁のように置かれた大剣と衝突した火球は、勢いを弱め、少女に至ることなく霧散した。

 地に大剣を突き刺した少女は、火球の先、天井を注視する。

 ――いる。

 そう断じた彼女の判断は早かった。

――仮想実行シミュレート・身体強化

 重々しそうに大剣を引き抜き、しかし――

――事象顕現リアライズ・5s

 跳んだ。30m以上はある距離を、一息に。

 数瞬前まで重そうにしていた大剣を、跳躍とともに軽々と振り上げ、その勢いをもって『何か』に叩きつけた。

 天井の景色が揺らぐ。現れたのは八脚・八つ目の多脚兵器。

 大剣は、前脚二つ――交差する白い刃によって受け止められていた。

 だが勢いは殺しきれなかったのか、大きく振り抜かれた大剣に押し出され、そのまま少女とともに天井を突き破っていく。

 駅構内にガラスの雨が降る。

 残された少女は、上空の一人と一体を目で追っていた。

――仮想実行・魔術遠隔強化杖 ――事象具現

 その手には、金属製のような無機質な杖。

 上空、自由落下に引かれる多脚兵器の目が怪しく光る。

 ボッ、ボッ、ボッ、ボッ。

 四つの着火音とともに、四方、少女を取り囲むよう四つの火球が生まれる。

 逃げ場のない空中。避けようのない速度で火球が少女を襲う。

 それを見ていたもうひとりの少女が、杖に力を込め、

――仮想実行・魔術障壁 ――事象顕現

 火球はことごとく、少女に届くより前、目に見えない壁に阻まれたように静止した。

 次いで、

――仮想実行・物理障壁 ――事象顕現

 舞い上げられ、落下の途中にあった天井の格子が、いくつか重力に逆らってその場で静止。

 自らが打ち上げた位置関係上、多脚兵器の下にいた上空の少女は、その格子をまるで床のように蹴り、自由落下をものともせずに斜め上方に跳ぶ。

 多脚兵器と並ぶと、さらに高所で静止していた格子を蹴り、三角跳びの要領で跳んでいく。

 結果、一瞬にして少女は多脚兵器の上を取り――大剣を振り下ろした。

 最初の跳躍から、時間にして五秒足らずの出来事。

 轟音とともに、多脚兵器は構内上層の床を突き抜け、下層の地面と衝突。粉砕された。

 しかし大剣の少女も無事ではなかった。彼女の体から鈍い音がする。骨の折れる音、筋繊維の切れる音。

 さらに、飛び散った多脚兵器の部品やガラスによるものも相まって、少女の衣服が赤く染まっている。

 その場に崩れ落ちそうになるのを、なんとか大剣を突き立て、こらえていた。

 上層にいた杖の少女が、階段からこちらに駆け寄ってくるのが見える。

 自身が血で汚れるのも構わず、大剣の少女を抱き支え、

――仮想実行・身体再生 ――事象顕現

 白い光、暖かな聖なる光、傷を癒すファンタジーな回復魔法……ではなかった。

 音もなく、光もなく、しかしただはっきりと、重症であったはずの彼女の傷は、ゆっくりと、だが確実に、ふさがれていく。

 しばらくすると、傷は消え去り、血の跡を残すのみとなった。

――具現終了エグジット

 少女の大剣が消え、息つく間もなく再び上層への階段を目指し歩き始めた。

 外からはわからないが、体の内部まで修復されているのだろう。足取りはしっかりとしている。

 一瞬、杖の少女が心配するような表情を、大剣の少女に向けたような気がしたが、すぐにかき消え、彼女の後を追った。

 ともあれ、ひとまずの障害は退けた。これで本来の目的地を目指せるだろう。

 そんな考えがあったかどうか。

 彼女に追いついた矢先、向かいの塔の上部で何かがキラッと光――

――仮想実行・物理障壁 ――事象顕現

 まず、衝撃があった。音は後からついてきた。

 杖の少女を狙って放たれた何かが彼女に達するまでに、大剣の少女が割って入り、障壁を顕現した。

 しかし何かは止まることなく、大剣の少女の額へと吸い込まれていった。

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