第7話 トラブル危機一髪!?

 陽が隠れてどんよりとした天気だが、安達梓あだちあずさの心は満開の桜のように晴れ渡っていた。

 休日、学園のアイドル城ヶ崎雪愛じょうがさきゆきめと学年のクール美女草木芽吹くさきめぶきとの買い物に誘われ幼馴染みの冬我咲理梨ふゆがさきりりと一緒に行ったのだ。

 しかもまた誘われたこともあり、まだ幸せな気持ちの欠片が今なお残っている。

 るんるん気分で朝食を終えて身支度をして理梨と一緒に学校に登校するのであった。

 しかし、梓に不運が起こる。登校中、雪愛に会い三人で歩いていると、梓の靴に変な違和感を感じ、足を上げて下を見ると犬の糞を踏んでいたことに気づく。

 学校に着くと急いで外にある水道で洗い流すがせっかくの幸せな気持ちが一気に今日の曇り空のようにどんよりとした気持ちになりながらクラスへと戻るのであった。


 クラスに戻ると心配そうな眼差しで近寄る理梨と笑いを堪えている理梨が近寄ってきた。


「大丈夫、梓」

「うん、一応汚れは落ちたかな?」

「汚れじゃなくてウンコでしょ」

「汚い言葉言わないでよ理梨!」


 ゲラゲラと笑い転げている理梨に若干怒りが湧く。


「ちょっと理梨笑いすぎ」

「ごめんごめん」


 眉を八の字にさせて雪愛は彼女を注意する。いつの間にか理梨にも下の名前を呼んでいたことに梓は気づいた。


「いいよ。気にしてない」


 ため息をつきながら鞄から机の中に教科書を入れようとしたとき思わず悲鳴を上げそうな場面を目撃した。

 机の中には大量の噛み終わった状態のガムが張り付いていたのだ。

 フンを踏んだのは偶然だが、これは完璧に嫌がらせ、多分雪目と仲良くしているのが気に入らない生徒の仕業だと思った。

 以前、校舎裏に連れて行かれて自分に暴行をしてきた、矢上春菜やがみはるなとその連れの二人に視線を向けると三人ともクスクスと笑っている光景を見て犯人だと確信した。

 その光景は理梨も見ていたらしく梓に見せていた笑顔が変わり、彼女の席の椅子を手に持ち、三人のいるほうへと全力で投げ飛ばす。

 矢上たちのほうに勢いよく椅子が飛んできたので慌てて三人はその場から退避した。


「おい! そこの三バカトリオ、次梓に嫌がらせをしたらベランダから一人ずつ紐無しバンジージャンプさせるからね」


 殺意のある笑みを向ける理梨に、涙を流しながら矢上たちはお互い抱き合い、恐怖でブルブルと震わせて首をブンブン勢いよく縦に振る。


 それを見た雪愛は少し怒りのある表情を理梨に向ける。


「芽吹から訊いていたけどこの前矢上が梓に酷いことをしていたのは知っているけど、今回の件は彼女たちがやったとは思えないし、仮にやったとしても、今の理梨の行動はやり過ぎよ」

「表情を見れば犯人はあいつに決まっているでしょ。それにあのバカ達にはあれぐらいの仕返しをしないと懲りずにまた梓に攻撃をしてくるでしょ」

「だからってそんな暴力的な行動したら問題になるでしょ。高校生なんだから話し合いや先生に相談する解決策だってあるでしょ!」


 なにやら良からぬ空気が理梨と雪愛に漂っている。お互いに火花をジリジリとぶつけながら睨み殺すように見つめ合い言葉を吐く。


「ケンカはよそう二人とも落ち着いて、私は大丈夫だからね」


 二人の間に梓は入り、必死になって宥める。


「梓が言うなら……。さっきの行動は確かにわたしもやり過ぎだと思ったし雪愛に暴言を吐いたのも反省している……ごめん」


 雪愛に謝罪し頭を下げる。


「わかってくれたならいいよ。親友が酷いことをされて怒る気持ちはわたしにもわかるから」

 

 なんとか穏便に解決して梓はホッと胸をなで下ろした。

 

 HRが始まると重い空気が一瞬にして無くなり、みな自分の席に着く。理梨や雪愛も自分の席に戻る。


「気に入らない」


 梓の耳に誰にも聞こえないほどの理梨のささやきが聞こえ、一瞬動揺したが聞こえないふりをした。




 HRほーむるーむが終わり一時間目に入るまでの休憩時間に梓はトイレの便座に座り深く考えていた。

 先ほどの梓の耳に囁いた発言は間違いなく理梨の声だった。休日あんなに四人で楽しい思い出を過ごしていたのにここで理梨と雪愛との亀裂が入るのはとても悲しい。

 理梨とは幼馴染みの大親友、雪愛は初恋でやっと友人として認めてもらい、この先も友達以上の付き合いをしたいと思っている。

 あの言葉の意味を梓は昼休み理梨に直接聞こうと決意しトイレから出ようとしたとき、突然滝のような水流が梓の頭上に降りかかり全身ビショビショになる。

 突然のことなのでその場で混乱していると、床になにかを放り投げた乾いた音が聞こえ、梓は扉を開けると女子トイレの床にバケツが転がっていた。またしても梓に対する嫌がらせであった。

 その場でスマホを取りだし、理梨に連絡する。


『どうした梓?』

「わたしのロッカーからジャージを持ってきてくれない?」

『何かあったの?』


 心配そうな口調で理梨は話すので梓は先ほど起きた件を説明する。


「やった人物はあの三人組じゃないと思うからまた酷い事をしないでね」

『わかった。――とにかく今すぐ行くから待っててね』


 通話が切れてすぐに女子トイレに慌ててる表情の理梨がジャージを持って入って来た。

 現場を見た理梨は親友の姿に思わず涙を流す。


「わたしが……あんな態度を取らなかったら梓はこんな酷いことされなかったはず」

「気にしないで理梨私は大丈夫だから。ジャージ持ってきてくれてありがとね」


 ヒックヒックとせせり泣く理梨の肩にそっと手を乗せる。


「でも……」

「私が大丈夫って言ってるんだから泣かないで。――そうだ! 学校帰りに美味しいケーキ屋に行こう」

「うん」

「それじゃ、わたしはトイレで着替えるから」

「わかった。何かあったら呼んでね」

「うん。ありがとう」


 目の周りを赤く腫らして理梨は涙を拭きながら去って行くのを見送り梓はトイレのドアを閉めて着替えをするのであった。




 着替え終わった梓はトイレが出て自分の暮らすに戻ろうと廊下を歩いているとまたしても不運が起きてしまう。

 足に何かぐにゃりと粘土のような感触の物が足の裏から伝わり、足を上げて上履きの裏を確認すると絶句してしまう。

 上履きの裏には茶色い物がこべり付いていた。

 その茶色い物体

 どうしてこんなところにこのような物が落ちているのか、キチガイが廊下でクソでもしたのか?

 現実にはありえない状況の中、二度目のウンコを踏んだことの絶望感に浸っていると廊クラスから生徒が出てくる。なんと梓の立っている六組のクラスは次の授業が移動授業だった。

 廊下から流れる鼻をつまむような刺激臭がクラス生徒全員の鼻に通る。

 その臭い匂いのするほうへ一斉に視線が向くところに梓が立っていた。

 その一件が全生徒に知れ渡り昼休みが入るまでずっと自分のクラスの生徒から『梓のクソ女』とからかわれた。


 昼休み食欲も無く自分の席でぐったりしているとき理梨が心配な様子で近寄ってくる。


「ねぇ梓大丈夫?」

「うん、平気平気」


 梓の顔が窶れている姿に全然平気そうじゃないことが見てとれる。


「話があるんだけど屋上に行かない?」


 何のことだろうと、思いながら仕方なく理梨と一緒に屋上に向かう。

 屋上に着くと理梨が真剣な表情で語り始める。

 

「あのね別なクラスの生徒から訊いたんだけど。今日朝トイレで梓が水掛けた犯人を私知っているんだ」


 理梨の発言に梓は驚いた。


「それって誰なの?」


 理梨の口から思いがけない人物の名を出した。


「犯人の名は


 その犯人の名を聞いた梓はどう返答して良いかわからずその場で立ち尽くすしかなかった。

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