百合とヤンデレと美女

関口 ジュリエッタ

第1話 片思いと百合

 雲一つ無い太陽の下、学生が賑わう通学路に二人の女子生徒が仲良く歩いていた。

 大人しそうなイメージで濡れ烏色の肩まで伸びるレイヤーカットヘアーに細身の可愛らしい女性、安達梓あだちあずさと隣にいる栗色のボブカットヘアーに高身長の活発のある女子高生、冬我咲理梨ふゆがさきりりは会話を弾ませながら登校していた。

「ねぇ、梓。この前のテレビにカキタク出ててマジ興奮したよ」

「ああ、昨日のバラエティね。わたしはあまりタイプじゃないから興奮はしなかったな」

「ほんとあんたってば、男の理想高すぎ、そんなんじゃ行き遅れになるわよ」

「まだ高校生なんだから行き遅れるわけないでしょ!」

 

 眉を吊り上げて頬を膨らませる梓に苦笑いをして理梨はジョーダンだと謝る。

 そんな会話のなか、梓の脇をきらびやかな黄金の髪をなびかせて通る一人の美少女に目を引かれてしまう。

 学校一の美女と言われている城ヶ崎雪愛じょうがさきゆきめ。梓だけではない周りの女子生徒や通行人達も思わず見惚れてしまう美貌や風格をだして歩いて行く。


「ほんとアニメの世界に出てきた美少女。――どうした梓! 口をぽかんと開けて」

「えっ!? 何でもない、何でもない」


 両手を左右に振りながらかぶりを振る梓にジーッと理梨は何かを悟った眼差しでこちらを見つめてくる。


「ほうほう、梓は男より女の方がいける口ですか」


 理梨の言葉に思わず背筋をビクッとさせてしまい、その行動を見た理梨は口に手を当てて驚く。


「え……マジなの?」


 頬を赤く染めてしまうが、理梨に気づかれないように顔を背けて歩く速度を上げる。

 今まで梓は幼馴染みで親友の理梨に内緒にしていることがあった。それは異性よりも同性に恋心を抱いてしまうことだった。なので共学の高校ではなく女子校を選んだのだ。もしかすると自分と同じ同性愛者がいると思って。しかし、入学して早々そんな人物はいなかった。もしかすると自分と同じく同性愛のことを内緒にしているかもしれないと思っていた。

 梓は雪愛に片思いをしていた。しかし、高嶺たかねの花で雪愛自身同性愛者ではないと思い、ずっと心の中の気持ちを彼女本人に伝えることはできないでいた。

 それを勘ぐられた梓はなにも反論ができないため話しを逸らすことにした。

 

「くだらないこと言ってないで早く行くわよ。遅刻しちゃう」


 理梨を置いて梓は早足で学校に向かい、その後を理梨は追いかけていくのであった。




 それから学校に着き、HRから授業に入り、一時限目の終了の休憩時間、梓は親友の理梨に自分が同性愛者だと気づかれてしまったんじゃないかと落ち込んでいると、本人がこちらへとツカツカと歩いて行る。


「どうした落ち込んで、もしかしてさっきの戸塚先生に当てられて上手く喋れなかったことで落ち込んでいるの? 気にすんな気にすんな。私なんて国語の授業なんて頭に入ってないから」


 ゲラゲラ笑う理梨に思わずため息が漏れれ、今まで考えていたことがアホらしくなる。

 ただ、このまま一人で抱え込むよりいっそ信頼できる人物に相談したほうが自分の心の中にある悩みの渦が晴れるかも知れないと思い、理梨に告げることを覚悟を決める。


「ねえ理梨。相談したいことがあるのだけど、昼休み屋上に来てくれる?」

「どうしたのマジな顔で? べつにいいけど」

「それじゃ、昼休み」


 昼休みになるまでの時間、梓は親友に自分の悩みを打ち明けて、もし嫌われたらどうしようと思い授業に集中することができなかった。




 昼休みになり、梓は理梨と一緒に学校の屋上に向かい、お昼ご飯を一緒に食べながら自分の悩みを打ち明ける。


「あのねずっと理梨に隠してきた悩みがあるんだけど?」

「ん~、なに?」


 自分のお弁当じゃ足らず、梓のお弁当のおかずをちょいちょい盗みながら話を聞く。

 

「あのね、わたしね女性同性愛者なのよ」


 言ってしまった。覚悟を決して伝え、重い眼差しで親友の顔を見ると、口に箸先を咥えて瞳をぱちくりと何度も見開く。

 親友の反応が薄く、そのまま不安の眼差しを梓は向けていると思いがけない言葉が返ってくる。


「ふ~ん。まあ、だいだい予想はしていたけど、マジだったか~。――あ! わたしは梓がレズビア~ンでも、親友なのは変わらないから、――いやもう恋人になるのか」


 なぜか頬をサクランボのように赤らめてクスクスと笑う理梨の姿に梓は小首をかしげる。


「恋人? なにを言っているの? 何か勘違いしているよね」

「えっ? だってわたしに告白してきた、ということは、わたしたちカップルになった、ということでしょ?」


 どうやら理梨はとんでもない勘違いをしていたようだ。


「違う違う。わたしはただ女性同性愛者のことを告白しただけで、理梨に愛の告白をしたわけじゃないから!」

「ちょっと! 今のはどう見てもレズだからわたしと付き合って、の流れになるでしょうが!」

「ならないわよ! ただ理梨に私は隠しごとを伝えたかっただけよ!」

「私の恋心を返せ!!」


 いきなり梓の弁当箱を強引に奪い取りムシャムシャと食べ尽くす。


「私の昼食……」

「わひゃひほほほろをひふふへたばふほ! (わたしの心を傷つけた罰よ!)」


口に入っている食べかすを梓の顔面に飛ばしながら喋る理梨に呆れてしまう。


「ちゃんと飲み込んでから喋りなさいよ」

「ゴクッン」


 リスみたいに両頬に膨らむほどの食べ物が一気に理梨の喉を通る。

 

「ちゃんと噛みなさいよ消化に悪いでしょ」

「それでそれだけじゃないでしょ。他にも私に伝えたい相談があるでしょ」

「……うん」


 もう一つ梓は伝えたいことがあった。

 それは……、

「好きなのよ」

「えっ?」

「城ヶ崎さんのことが好きなの」

「なるほどね……」


 屋上の床に理梨は大の字に仰向けになり、気持ちよさそうな表情になる。


「まあ、あの容姿じゃ異性以外にも好意を抱くのは当然だよね」

「叶わない恋でもいつか気持ちを伝えられたらいいんだけど……」


 少し落ち込み気味に呟く梓の肩をぽんと理梨は優しく叩き、立ち上がる。


「諦めるな梓、例え難しい恋だろうと積極的に相手にぶつかれば受け入れてくれる。私も応援するから叶わない恋なんて言わないこと。わかった?」

「理梨」


 満面な笑みを向けてくれる理梨に梓の心の渦巻くモヤは雲散し、晴れ渡る。

 こんな素晴らしい親友を持てたことに梓は幸せな気持ちでいっぱいになる。


「よし! そうと決まれば行くよ梓!」

「行くってどこに?」

「決まっているでしょ、雪愛さんのところだよ。同じクラスなんだし声かけて仲良くなろうよ」


 強引に腕を掴み屋上を出ようとする理梨を引き留める。


「いやいや、まだ心の準備ができていません」

「何弱気になっているのよ。まずはお互いの距離を近づけさせないといけないでしょ。ほら、行くよ」

「だからって急に声かけてら警戒されちゃうでしょ」

「同じクラスなんだから警戒されるわけないでしょ。バカだから勉強教えてくださいと口実つければそのきっかけで仲良くなれるよ」

「無理無理。わたし理梨みたいにバカじゃないし、それにあなたみたいに誰とでもすぐに距離を縮めることができるわけない」


 慌てて理梨を引き留めようとするが、当の本人は梓の言葉に聞く耳が持たない。

 理梨は自分が決めたことはどんなことがあっても実行する強い精神を持つ。なおさら梓の悩みを解決するためとなると当然いても立ってもいられなくなる。


「なんかさっきの言葉だど私が軽いバカな女に聞こえるけど、まあいいわ。とにかく怖じけ着くんじゃないわよ」


 バスケ部の力に文芸部か弱き力に抵抗できず梓はそのまま自分と同じクラスにいる雪愛の所に向かうのであった。

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