#17 vsアリス・プーペ 前編
アリスに操られている子は、いくら倒しても起き上がってくる。そのことに動揺してしまい、アリスの魔法攻撃に対する反応が一瞬遅れてしまった。
「うぐっ!」
再び爆発魔法をまともに喰らってしまう。吹っ飛んだ私の身体は、今度は床に叩きつけられた。全身に痛みが駆け巡り、もはや動くことは出来なかった。
「傷が痛むでしょう? あたしの人形になればその苦痛から解放されるわよ? 大人しくあたしの人形になったら? お前は結構あたし好みだし、大事にしてあげるわ」
アリスが勝ち誇ったように尋ねてくる。けれど、当然、私にだって意地がある。
「断る。私は殺されたって、あなたの人形なんかにならない」
私の返しに、アリスは憤慨した。
「そう。ならば死になさい。私が直々に地獄に送ってあげる」
アリスの手の平に光が収束していく。最後の衝撃に備えて、私が目を瞑りかけた、その時だった――。
アリスの身体がどこからともなく現れた光の鎖によって拘束された。
「何⁉︎」
アリスが驚いた声をあげる。その間にアリスに操られている子達も次々に現れる鎖で縛られていく。
「間に合って良かった。結構、危ないとことだったみたいだね」
その声の方に顔を向けると、そこには身の回りに魔法陣を展開しているらんかがいた。どうしてらんかがここに? 眠りの魔法をかけていたはず……自力で解呪を? というか、なんで魔法陣なんか展開できるの? 前世返りがこの短時間の内にさらに進んだ? 口調もなんだからんかと言うより……。
頭が追い付かず、ぼんやりとらんかを見つめていると、
「シエル!」
らんかが駆け寄ってきた。
「らんか、どうしてここに……というか、今の力は……」
「いや、まあ色々あってね。そんなことより、まずはその怪我をなんとかしないと……」
と、私の傷に触れて回復魔法を唱え始める。
回復魔法まで……?
「――!」
らんかの身体から発せられた優しい光が私の身体を包み、傷をみるみるうちに癒した。
「……ありがとう。助かったわ。でも、この力は一体……?」
「まったく、キミはいつも無茶をするんだから」
らんかはどこか怒っているような、けれど、ほっとしたような声を漏らしながら肩をすくめた。その仕草は私がかつてよく目にしていたものだった。マシュがよくやっていた仕草だった。
「らんか……あなた、もしかして……」
私の言葉を遮るように、アリスが苛立ちに満ちた声をあげる。
「くそ……こんなもの……」
全身から魔力を放ち、自身を縛り上げる鎖を破壊した。
「今日はずいぶんと招かれざる客と会うわね……一体、お前は何者……」
言いながら、らんかの顔を見て、アリスが目を見開く。
「勇者……なぜここに⁉」
アリスの言葉を聞いて。私は驚愕と納得が混ざり合う。
魔法陣が展開できたのも、口調がらんかのモノと違うのは全てはそういうことなのだろう。らんかが完全に前世返りして、マシュが蘇った。
マシュと再会できて今にも泣きそうになってしまう。けれど、マシュがこうしているということは、らんかはどうなってしまったのだろう? もしかして消えてしまった……?
私が一人、情緒不安定気味に色々と考えている脇で、マシュは得意げにアリスの質問に言葉を返す。
「キミ達がこの世界でも目覚めて悪事を働いていると聞いて、私も急いで起きてきたんだよ」
さて、と声を低くしてマシュは続ける。
「状況はらんかを通じて理解しているよ。女の子を誘拐し、この世界に存在しないはずのゴーレムを作り、洞窟を作り、植物魔物を育て、挙句たまたま近くにいた人たちに呪いをかけ、シエルの事も傷付けた。キミはもう許されないよ?」
言い終わると同時に、マシュは手元に魔力で出来た光の剣を召喚し、それを振るった。
途端に、剣先から光の波とでも形容すればいいのか、そんな衝撃波が放たれ、アリスに向かっていく。
「小癪ね」
アリスは、飛び退いて自分に迫る衝撃波を避けつつ、掌から黒い光弾をマシュに向けて放った。その場から一歩も動かないまま、マシュは持っていた剣の先で地面を突く。
マシュの周囲をオーラが包み込んだ。防御魔法だ。アリスの放った光弾は魔法の障壁にぶつかり掻き消える。
直後に、アリスの身体の周りに再び光の鎖が現れ、アリスを雁字搦めにした。
「こんなの、何度でも……」
先程同様に、魔力を放って鎖を破壊しようとするが、今度はまったく壊れそうにない。
「さっきのと違って、今回は本気で拘束魔法を使っているからね。簡単に抜けられると思わないことだね」
「おのれ……またしても、こんな小娘に……」
マシュは余裕の表情で光の剣の刃先をアリスに向ける。
「前の世界でもそうだったけれど、不意打ちじみた魔法にさえ気をつけていれば、キミは魔王軍幹部という割にそんなに大したことないよね……さあ、これで終わりだ」
マシュが剣先に魔力を込めだす。刃先に光が収束していく。
「……確かに、このままでは、あたしは終わりかもね。でも……」
アリスの身体が、突然カクンと脱力した。縛っている鎖に支えられているため、倒れることなく、立ったままだ。
何をしてくる気なのだろうか。私たちは警戒して、アリスを注視する。すると――。
「え? 私は今まで何を……って、何この恰好⁉ それに、なんで私は縛られて……?」
意識を取り戻したアリスは、姿こそ同じだけれど、中身は完全に別人だった。自分が置かれている状況が理解できずにパニックに陥っていた。
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