悩ましき遡行 

第1話


どこまでも

この指はまりゆく

芯なき肌を


この脆弱で非力で

しとどに柔らかく成り果てた

白き肌を


かのひとの


男としては繊細で

しなやかなる指で

も一度触らせむと夢想するのだ


この身の心と肉が萎び弱ったように

かの指も同じく

生活に埋没し疲れ果て

淫靡な動きなど

とうに忘れてしまったろうか


ならば、尚更にと

加虐と自嘲の暗き喜びが

遠い記憶の熱き火照りへと



我も彼も

思い出さんとばかりに


非力な腕で強く痛く


白き肌をつねってみたりもする


赤い印が残る



この印をなぞれば

遡行せんとする

悩ましき魂の浅ましさ



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悩ましき遡行  @oboto

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