第3話

翌朝、町の鐘の音が聞こえた。


ゴーンゴーンと耳にこだまし、清い空気に脳が覚醒する。


目がしっかり覚めているわけではないが、待っていても眠気がして枕に顔を埋めてしまいそう。


ユイスが二度寝したマショリィを起こしにきてしまうから、今回はしっかりせねば。


自堕落的な生活とこういう時、無性に望みたくなる。


鳥の声も聞こえて漸く起き上がれる気持ちが整い、ふらふらとキッチンへ向かう。


座るところへ向かうとふわわんと香ばしい香りが漂ってきてユイスがもう起きているのかと感心。


くんくんと嗅ぎながら待っているとユイスが出来たと声をかけるのでキッチンへ足早に向かい、浅いトレーを渡されて次々に乗せられていくお皿。


その中にはユイスの手作りが入っている。


前に運ぼうとしたユイスがつんのめるのを見てからは自分で運ぶことにしている。


足腰を鍛えているが背丈は子供な彼にとってトレーとは危ないのだ。


まだ、やらせてはいけない。


転びそうになった時にはひやひやしたから。


テーブルへ付いて、二つあるトレーを一瞥し、ユイスが椅子に座るのを合図に食べようかと声をかけた。


本当はいつでも自由に食べてもいいのだが、師弟の関係を強く押している彼からしたら、納得が出来ないのかもしれない。


それからは、ちゃんと声をかけている。


マショリィはズボラな方だから、勝手にやってくれたりする方が楽だ。


でも、ユイスは真面目だから仕方ない。


一肌脱ぐことにしている。


手間をかければかける程、ユイスが懸命になっていくのを分かっていて、やるのだから。


彼は可愛い。


食べてしまいたいくらい猫可愛がりしたいが、ユイス本人はこんな感じなので甘んじていーこいーことさせてくれない。


「今日も美味しいね。流石はわたしの一番弟子ね」


「料理スキルが他のスキルよりも上がるのが早いのは複雑だけどな」


「まぁまぁ。美味しいは正義なのよ」


本当は嬉しいくせに照れ隠しで文句を言う。


そこも結構ユイスの可愛い所である。


言葉にしたりすると怒るから今は言わない。


ポロッと言うかもしれないけど。


「んん。よし」


食べ終わると大きく背筋を伸ばして伸びをする。


これをするとスッキリする。


ユイスはスキル云々と関係のない鍛練をしている。


腕立て伏せ、だっけ。


それをしていて、先程から運動を繰り返している。


食べて直ぐは運動してはいけないとか聞いた事があるから止めよう。


「脂肪はまだ付く歳でもないでしょ。あと三十分我慢しなさいな」


説明が出来ないから適当に誤魔化す。


ユイスは多分こいつ理由がよく分かってないなと思っていると思う。


素直に言葉を従ってくれたようで、腕立て伏せを止めた。


安堵していると薬草をごりごりを潰すことに移行したらしく、作業場へ消える。


仕事熱心だね。


マショリィは二度寝したいと思っているのに。


今日は早く上がると言っても、別に早くから開店するわけではない。


いつでも好きなように開いたり閉めたりすることが出来るから店を出しているのだ。


それに、露店だから雨が降ればそこで切り上げるのも自由。


いやはや、露店万歳である。


薬にする為に薬草を潰すにしても開店まで長くはないので、直ぐにここへ戻ってくるだろう。


三十分程して、彼が部屋へ入ってくるのを見ると、だらけていた身体を起き上がらせて外へ行く。


家から出発して露店を出しているいつもの位置に屋根を出す。


一番目のお客様は小さな女の子で、ユイスを見ると目をぱちくりさせた。


マショリィは怠けてユイスだけに店先へ立たせている。


頻繁に客が来る事も無いのでずっと立つのも疲れる。

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