異世界で薬師をしていたら子供を拾ったのだけど数年後弟子に迫られていた〜そんなふうに育てたつもりはなかった〜
リーシャ
第1話
一人で俯いて体育座りをしていたから声を掛けた。
誰でも良かった。
けれど、出来るだけ愛想のいい子が良かったのが理想だが簡単に純粋な子など見つかるわけがない。
一人で生きるには、世界が違いすぎた。
どうしても同居人が良かった。
飛び切り面倒見がよくて懐いてくれる子。
何故声をかけたのかと問われた時、その答えを正直に言うと怒り狂うかもしれないと思うので言わないことに決めていた。
でも、彼を選んで良かったと今では確実に言える。
「ユイス、あれを、ヤナッペイの草を持ってきて」
目を横に流す。
薬師として営んでいる店を、手伝わせている男の子に頼む。
彼は楽しげにしている癖に、渋々といった風を装おい草をこちらへ届ける。
彼が夜遅くまで、本にかじりついているのを知っているんだからね。
「ん」
素っ気ない態度は今では微笑ましい。
にやけそうになる口許を閉じて、にやけぬように我慢しつつ受け取る。
ユイスはまた薬草をすりおろす作業に戻ると、ごりごりと作業音が耳にこだました。
客の実入りは多く、途切れることはない。
薬草は珍しくないが、それを煎じて飲む為に草を乾燥させたりする薬師は殆どが王宮からひっぱ抜かれたりする。
下町には先ず一人居たら、その場所に住んでいる人はこぞってやってくる。
医者と違うのは医者は高くて、庶民には手が出せない。
この店は少し高めに設定してある値段だが、手が出せない程ではない。
だから、こぞって人が押し寄せてくる。
開業して五年、忙しさに忙殺されそうになったからユイスを雇った。
一人増えても相変わらずな忙しさに、もう一人雇おうかと悩んでいるのが最近。
「おれは一人でもやれる、こなせる」
背伸びする発言。
「んー、でも、なぁ」
と会話をしたのもつい昨日だ。
いくら男の子でも、まだ働き盛りという程筋肉も体力もない。
無理をさせると身体を壊すかもしれないし。
こういう薬師の仕事をしていると、たまに勘違いをする輩が居る。
安く売っているのなら、もっと高く売れるように転売する人達が。
転売するのは構わないが、そんな事をうちの商品でされては店が危機に見舞われる。
それに、転売しそうな人達には売らないと言ってあるのに客を差別するのか、なーんて言う人達も居る。
それならば店を隣町に移転させるぞ、とこちらも反撃を喰らわす。
口をむぐっとつぐむ相手にスカッとなる。
嫌なら人が嫌がる行為は止めるこった。
遠回しに言うとズコズコ去っていく。
そんな商魂逞しい事をしていると名前も売れてきて、遠い所から来る人もいる。
「あ、なんか掴めた」
「徹夜したな。また」
サラッと彼から怒りの声が聞こえてきた。
早数年。
そろそろ隣町へ行こうかな。
ユイスがまだ後ろで色々言っているが、逞しい顔を見るとニヤニヤしてしまう。
カッコいい人がいるとにやついてしまう。
「カッコいい顔が台無しだよ。笑顔笑顔」
にこにことなる。
「誰が怒らせているとっ」
キィキィと怒るユイスは見ていて、からかうのが楽しい。
そんなに怒らんでも。
ほうほうと宥めるようにへらへらとする。
「笑顔がスキだから笑顔~」
「っ、ふん。お前はぼんやりしてるから客から舐められんだぞ」
青年とはまだ言えない年齢なので、少し背伸びしている感がある。
そこもご愛嬌だろう。
まだぐちぐちと言うので、ユイスのぷにぷにな頬っぺたをぐにぐにと引っ張って堪能する。
「止めりょバカぁ」
されるがままになっていても口が達者である。
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