幼なじみが重すぎるけど、俺は今日も平和に過ごしたい
鈿寺 皐平
幼なじみが終わった日
「ねえ、シン。今日も一緒に帰るでしょ?」
放課後、俺——
「いや、たまには一人で——」
「ダメ♪」
俺の言葉を
「……お前、最近スキンシップ多くない?」
「気のせいじゃない?」
「いや、絶対気のせいじゃないからな?」
俺はため息をついた。こいつ、俺が小さい頃からの幼なじみなんだけど、昔からこんなに距離感がバグってたわけじゃない。
むしろ、中学までは普通だった。それが高校に入ってから、急に甘えてくるようになったんだ。
「まあ、いいけどさ……」
「やった! じゃあ行こっ♪」
こうして俺は、いつものように結衣と一緒に下校する。
※
「ねえ、シンはさ、彼女作んないの?」
「急にどうした」
「んー? ちょっと気になっただけ」
結衣が俺の腕にしがみついたまま、じっと俺を見つめてくる。
「まあ、別に今は考えてないな」
「ふーん……」
結衣は俺の返事に不満そうな顔をしながら、何か考えているようだった。
「じゃあさ、もし私が彼女になったらどう?」
「ぶっ!?」
俺は思わず咳き込んだ。
「お、お前、何言ってんだよ!」
「だって、幼なじみだし、一緒にいて楽しいし……ダメ?」
結衣は少し不安げな表情を浮かべる。その顔を見て、俺の心臓が跳ねた。
「……いや、別にダメとかじゃなくて……」
「じゃあ、アリ?」
「え?」
「私と付き合うの、アリ?」
「そ、それは……」
俺は答えに詰まった。結衣のことは確かに大切な存在だけど、恋愛的にどうなのか考えたことはなかった。
すると——
「ふふっ、冗談だよ♪」
結衣は急に笑って俺の肩をポンポンと叩く。
「……お前な」
「ちょっとシンの反応が見たかっただけ!」
「……」
なんだろう、このモヤモヤする気持ち。
「でもね、シン?」
「ん?」
「私は、冗談って言ったけど……それが本心かどうかは、シンが決めていいよ?」
結衣はそう言い残し、俺の腕を離した。
そして、ひらひらと手を振りながら家へと帰っていく。
……なんだ、この胸のざわつきは。
「……はあ」
俺は大きなため息をついた。
今日も平和に過ごすはずだったのに、どうやらそれはもう難しいらしい。
※
翌日。
「シン、おはよ!」
結衣が俺の机にドンと両手をついて、顔を覗き込んでくる。
「お、おう……」
昨日のやり取りを思い出し、なんとなく気まずい。だが、当の本人はケロッとしている。
「今日さ、放課後空いてる?」
「え? まあ、特に用事は——」
「じゃあ決まり! デートしよっ♪」
「……は?」
何を言っているんだ、この幼なじみは。
「昨日の話、試してみたくなったの! だから、一日デートしてみようよ♪」
「おいおい……」
「ほら、彼女のフリとかじゃなくて、本当にデート。ね? いいでしょ?」
期待に満ちた瞳で見つめられ、俺は逃げられなくなった。
「……わかったよ」
「やったー!」
こうして俺は、幼なじみとの“デート”をすることになった——。
※
放課後。
「じゃーん! シン、どう? 私の私服!」
待ち合わせ場所に現れた結衣は、いつもの制服姿とは違い、淡いピンクのワンピースを着ていた。
シンプルだけど、ふわっとしたシルエットが彼女らしい。
「……ああ、似合ってる」
「本当? えへへ♪ シンにそう言ってもらえると嬉しいな」
「……まあ、行くか」
「うんっ!」
そして、俺たちはデートスポットへと歩き出した。
「まずは映画に行こう!」
「お前、何観るか決めてるのか?」
「もちろん! この恋愛映画!」
「……え、恋愛?」
「カップルで観ると、距離が縮まるって評判らしいよ?」
「お前、それ完全に狙ってるだろ……」
「ふふっ、さあ行こ♪」
結局、俺は結衣に引っ張られ、映画館へと向かうことになった。
※
映画館に着くと、結衣はすでにポップコーンとドリンクを両手に抱えていた。
「シン、キャラメルと塩、どっちがいい?」
「……え? 俺の分まで買ってたのか?」
「もちろん! シンの分を忘れるわけないでしょ?」
「……まあ、キャラメルで」
「了解♪ じゃあ、行こ!」
俺たちは席に着き、映画が始まるのを待った。
しかし、上映が始まると——
「わっ……!」
結衣が俺の腕にそっとしがみついてきた。
「お、おい……」
「ほら、こういうシーン、ちょっとドキドキしない?」
画面には、ちょうど主人公とヒロインが急接近するシーンが映っていた。
「……お前な」
「えへへ♪」
俺はもう、映画の内容がまったく頭に入ってこなかった——。
※
映画館を出た後、俺たちは近くのカフェに入った。
「シン、何食べる?」
「……まあ、オムライスで」
「じゃあ私も一緒♪」
結衣はにこにこと微笑みながら、俺と同じメニューを頼んだ。
「今日の映画、どうだった?」
「いや、正直お前が気になって内容が全然入ってこなかった……」
「え? それって……」
結衣は一瞬驚いた顔をした後、頬を赤らめて嬉しそうに笑った。
「……そっか♪」
この笑顔を見た瞬間、俺の胸がまたざわついた——。
「ふふっ、それなら映画なんて観ないで、最初から私のことだけ見てればよかったのに♪」
「お前な……。それはさすがに恥ずかしいだろ」
「えー? じゃあ、私のこと見るのは恥ずかしいの?」
「……そういう意味じゃなくてだな」
俺が言い訳しようとすると、ちょうどオムライスが運ばれてきた。
「わーい! いただきまーす♪」
「お前、テンション高いな……」
結衣はスプーンを手に取ると、嬉しそうにオムライスを頬張る。
そんな彼女の無邪気な姿を見ていると、さっきまでの気まずさも少し和らいだ。
「ねえシン、あーんしてあげよっか?」
「は?」
「ほら、口開けて♪」
「いや、自分で食べるから」
「むー、ノリが悪いなあ」
結衣は少し不満そうにしながらも、楽しそうに笑っていた。
※
食事を終えた後、俺たちは夜の街を歩いていた。夕焼けがすっかり消え、街灯が灯り始める時間だ。
「今日は楽しかったね♪」
「まあ、そうだな」
「“まあ”じゃなくて、“すごく”楽しかった、でしょ?」
「……はいはい、すごく楽しかったです」
「えへへ♪ それならよし!」
結衣は満足そうに微笑む。そんな彼女を見ていると、不思議と俺まで嬉しくなってくる。
「……なあ、結衣」
「ん? なに?」
「お前、本当に俺のこと……」
「好きだよ?」
俺が言い終わる前に、結衣はさらっと言ってのけた。
「……お、おい、もう少し考えて言えよ」
「考えるまでもないもん」
結衣は俺の手をそっと握る。
「シンはどうなの?」
「俺は……」
心臓がドクンと鳴る。
俺はこいつのことをどう思ってる?
ずっと一緒にいた幼なじみ。距離感が近すぎるけど、嫌ではなくて——
「答えは、もう少し待ってくれ」
「……ふーん、まあいいよ。どうせ答えは決まってるし♪」
「なんでお前が決めつけるんだよ」
「だって、私のことずっと見てたでしょ?」
「……っ!」
俺は何も言い返せなかった。
結衣は俺の手を強く握りながら、夜道を歩き続けた。
このまま、幼なじみの“平和”な関係が続くと思っていた。
でも、どうやらそれは——もう無理みたいだ。
幼なじみが重すぎるけど、俺は今日も平和に過ごしたい 鈿寺 皐平 @AZYLdhaTL77ws6ANt3eVn24mW8e6Vb
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます