第13話

ここで咲としてしまえば、加藤くんを裏切ったことになる。でも加藤くんよりも咲を優先する私は彼よりも咲を選ぶべき。


頭が中がごちゃごちゃしてきた。いざ加藤くんのような“良い人”が現れたらこれだ。どっちに傾ければいいのか悩んでしまう。不器用なのだ私は。



「咲とはキスしない」


「どっちだよ」


「でも、咲との関係に名前が欲しい」



曖昧すぎる大きな愛情と友情に、私自身どうしようもなくなってしまう。


至近距離にある綺麗な顔に手を添えた。清涼剤の香りがする。



「俺等は変わらねぇよ。なに心配してんだ」



そして咲に宥められる始末。


名前がないから枠にはまらない。だからいくらでも咲を尊重出来るし、大事に出来る。制約のない関係が心地よかった。


でも彼氏というものが出来て、二番目でもいいと言ってくれる人がいて、嬉しいはずなのに、一方で動きにくさを感じてしまう。


咲との関係に名前をつけて咲を何かのくくりの中に置いておきたいと思った。



「依存してる」


「お互い様だろ」



ただ大切ってだけじゃ、物足りなくなった瞬間。



「ほら、帰るぞ。鞄取ってこいよ」


「うん」



1年以上続いた私と咲の関係が少しずつ形を変えようとしていた。





消えた栗色を目で追って、

汚れた廊下に「・・ーーなよ」と、

言葉を吐いた。

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