第6話
咲とはクラスが違う。さらに言ってしまえば所属する科も違う。私は普通科理系クラス。咲はスポーツ科。
登下校を共にしたり、お昼をこうやって一緒に過ごすことはあっても学校にいる数時間の内、咲といれる時間は一割にも満たない。咲は部活があるし、私には勉強がある。放課後に遊びに行くなんてことも指折り数えられる位しかなく。
それなのに、今。お互いがお互いを大事に思っていて、咲以上も私以上もいない間柄になったのはもはや運命というあまりにも不確かな言葉でしか言い表せない。
「咲と私の関係ってなんていうの?」
「俺、それに関しては入学してから今の今までずっと考えてる」
「友達以上で恋人以上?」
「家族と同等か、それ以上」
これだから私と咲はまともな恋愛が出来ない。それなりに付き合った経験だって、行為を寄せられた経験だってあるのに、決まって私達の彼氏彼女は私と咲を邪険に扱う。
『なんで一ノ瀬とは帰って、俺とは無理なの?』『一宮先輩とは友達じゃなんですか?』『さすがに彼氏差し置いてそれはねぇよ』『彼女はわたしですよ!』
エトセトラ。エトセトラ。
こればっかりは仕方がない。どうして恋人が最上級の関係だと言えるのか。まるでそれ以上があってはならないとでも言うような口ぶり。
「私たち、このままじゃ結婚も出来ないじゃない」
「死活問題だろそれ」
「いっそのことお互いを二番目にして、恋人を一番にする努力してみる?」
「いや無理だって。そうすると藍子が二番目になるから一番のハードルなおさら上がるだろ?それもう見つからねぇって。逆に一生彼女出来なくなる」
「そっか」
きっとこの会話、他の人が聞かせたら頭抱えて怪訝な顔をされるに違いない。そしてその後は皆口を揃えてこう言うのだろう、『二人が付き合えばいいじゃん』と。
わたしと咲がその選択肢を口にしないのは、恋人になってしまえば今の関係より下になってしまうという懸念があるから。私は咲を自分の彼氏よりも大事に思うし、咲もまた然りだ。
恋愛に咲を当てはめたくない。
「良い人現れてくれないかな」
「良い子いねぇかなー」
なんの前触れもなく発したはずの言葉が被った。目を見合わせた私と咲は一瞬の空白の後それを声に出して笑った。中庭の空に重なった私達の声が広がっていく。
ここで私と咲が言う“良い人”というのは、
「( 咲が一番でいいよって言ってくれる良い人 )」
「( 藍子が一番でも怒らない子 )」
そんな人が現れたならーー・・なんて望み薄の願望と共にお昼休み終了の合図が鳴った。廊下を行き交う生徒を見つめながら、いつものように私と咲はギリギリまでここにいる。
お昼休みとは、
私たちの悩みとお互いへの愛情を確認する80分。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます