第4話

時間は、17時15分前。




各々の教室の窓からは、夕日のオレンジ色の光が優しく降り注ぎ、周りの雰囲気を、少し柔らかくさせてくれている。




目の前にあるドアの、上の方にある小窓からは、うっすらとその、オレンジ色の光が射している。




「…もう、来てるんだ…」




ぽつりと呟くと同時に、微かに笑みが零れる。



小窓に光が零れるというのは、誰かが中で、カーテンを開けたという事。




あの人は、やっぱり変な所で紳士的だ。自分もこれでも早めに来たつもりなのに。




「………」




そうすると、今度は少しずつ、心臓の動きが早くなってくる。



手も足も微かに震えだして、今声を出したら、それも間違いなく震えていると思う。




「……」




目の前にあるドアの真ん中、ちょっと上。



【音楽室】と書かれているプレート。




私達吹奏楽部が、放課後、部室として使っている空間。




気軽にドアノブを回せないのは、これからの予定が

“部活”じゃないからで――…。







…落ち着け。落ち着け。




言う事はちゃんと整理した。



何度も練習した。



笑顔も、鏡の前で練習した。



頭の中で、シチュエーションも想像してみた。




…きっと、最後までちゃんと言える。






「……よし」



最後にもう1回だけ、静かに深呼吸をして、




私は目の前にあるドアノブを、ゆっくりとひねって引いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る