第四章 魔法か、呪いか。刺すまち針は夢を叶える
――――第四章 魔法か、呪いか。刺すまち針は夢を叶える
数日後、家庭科の日。恋美は少し緊張しながらも、魔法のまち針を学校に持ってきた。チャンスは突然やってきた。昼休み、恋美が購買に向かう途中、廊下の曲がり角で空くんとぶつかってしまったのだ。
「あっ、すみません!」
慌てて頭を下げた恋美に、空くんはいつもの優しい笑顔で言った。その時だった、魔が差したというのか、持っていたまち針に手が吸い寄せられた気がした。
「大丈夫だよ」
その瞬間、恋美は衝動的に右手に握っていたまち針を空くんの右脚にそっと押し当てた。チクッとした感触。空くんは一瞬、「ん?」と顔をしかめたものの、すぐにいつもの笑顔に戻った。
「どうかした?」
恋美は慌てて首を横に振った。
「い、いえ、なんでも……!」
空くんは不思議そうな顔をしながらも、「そう?」と言って、友達の元へ歩いて行った。恋美は自分のしたことに心臓がドキドキしていた。空くんは少し痛がったようだったけれど、針は見えていない。本当に効果があるのだろうか?不安と期待が入り混じった複雑な気持ちで、恋美は購買へと急いだ。
それから数日がたって、明らかに空くんの態度が変わったように感じ始めた。今までほとんど話したことのなかった空くんが、やたらと恋美に話しかけてくるようになったのだ。廊下ですれ違うと、前よりも優しい笑顔で挨拶をしてくれる。時には、授業中にふと目が合うことも増えた。そして、来週の家庭科の授業でグループワークをすることになったのだが、なんと先生が席替えをした結果、恋美と空くんが同じ班になったのだ。恋美は信じられない気持ちで顔を上げると、空くんがにこやかに微笑んでいた。
「よろしくね、恋美ちゃん。」
はじめて名前を呼んでもらえた。私のことを覚えていてくれたんだ、と嬉しくなった。恋美はまち針の効果を日に日に信じるようになった。
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