◆第7話 シグナルの入手
コンコン
座卓の裏を叩く小さな音だ。もしかすると何度目かに鳴らされたものかもしれない。隣にいる銀花だけに分かるよう鳴らされている。
刻印機の操作をおえて舞台に戻り、床で姿勢を崩さずにいるのに疲れてきたところだった。
座卓を叩いた拳が引き出されて、彼のもう一方の手が下に、何もない宙を指差す。なんだろうと思っているうち、注意を促した指はくるっと返されて手のひらが拳の下に広がった。手話をするみたい。単に遊んでいるだけかもしれない。両手の位置は、落下する隕石を巨大なネットで受け止める感じだ。アニメのシーンか何かを銀花は思い出し、勝手に空想をふくらませている。手のひらは再び、はっきり指を差す形になって止まる。拳の甲を叩く音のないコンコン。
――手の中に何かを握っている?
メッセージに気づいた銀花は空想から戻った。
思いついたことを確かめるために視線を上げる。
澄ました黒土の横顔は、手遊びが二人以外に知られてはいけないことを示している。
顔が火照るのを抑えられない。
「……銀花はどう?」
正面――座卓の向こう側から耳に届いた問いかけは、余裕がなかったので意味が分からない。
「ぼんやりしてて聞いてませんでした」
素直に謝る。誤魔化すとダメだ、こないだも……。
「じゃあもう一度言うね、合宿の初日だから――」
正面を向いたまま腹の前に腕を通して手を開く。見えないが、銀花の手は小さいので黒土と比べたら子どもの手のように見えるはずだ。空想を止める。そうゆう場合じゃない。集中する。右耳も忘れるな。
銀花の手のひらに音もなく落ちてくる。
「今日の目標を決めましょう」と隻海が言ったのと同時だ。
すかさず握りしめると不思議とひんやりとしている。まるで冬の空から降ってきたみたいに。
薄い板は楕円の形をしている。
握りを少し変えただけで分かる。手にある金属片に刻印はない。
黒土がどういうつもりかは知らない。澄ました横顔に変化はない。ただ、間違いないのは……。
銀花は今、シグナルを手にしている――。
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