大人が御伽噺を読んでも許されます

本作を読むと、大人が御伽噺を読むことは咎められないのだと思えてきます。

書店を舞台とする本作が語る、日本における書籍流通の現状は、知的に興奮すると同時に、先ほどの私の言葉と矛盾しますが、将来について絶望するものです。

カクヨムで小説を書くのは、作家になりたいという人が多いですし、あわよくば儲けたいと思っています。それなのに肝心な本を販売する書店が全く儲からない現実。すると供給元である作家に利益が還元されるのか疑われてきます。将来が暗く見えます。

そんな現状にもかかわらず、舞台となる書店は息を吹き返します。その歩みは劇的で、小説を読むなら「あり得ないこと」を読みたいという読者の希望を叶えます。

そこに糸をより合わせるように男女の恋が進展します。二人が幸せになるといい、読んでいる途中からそう思えてきます。

後半パートはファンタジー作品であり正真正銘の御伽噺です。ファンタジー世界なら楽しさと悲しさを織り交ぜた物語が繰り広げられることは日常とも言えます。

次第に息苦しくなっていく私達の社会であっても、夢を見ることは許される、そう思っていいんです。そう信じていいんです。そう、声に出して言っていいんです。

読み終えて現実に戻ったときに苦しくとも、本作を心中に守りつつ生きていけます。

その他のおすすめレビュー

村乃枯草さんの他のおすすめレビュー430