6.茶番(チュートリアル)の終わり

 前回(5話)の内容ですが、今回(6話)の内容と入れ替わりが起きており、修正いたしました。

 読者の皆様には混乱を招いてしまったこと、お詫び申し上げます。


 *****



「いや〜ごめんね?

 折角仲間になってくれてた矢先に麻痺毒流しちゃって」


 私が誤って『麻痺毒』を流した数分後、二人の麻痺が解けたことで私は彼らに謝罪していた。


 それ以上に、元とは言えどもこの二人の仲間だった存在に手をかけたことに、私は少し深い引け目を感じていた。


「いえ。あれらは全て僕達の決断が遅れただけですので、人ぎょ……ボスは何一つ悪くありません」


 クガル君はこう言ってくれているが、キュールちゃんのほうは少し機嫌が悪い。

 それにしても、少し渋めの眼鏡盗賊に「ボス」と呼ばれるのは案外悪くない。


「クガルさ、配下になったからっていきなり親しくなりすぎじゃない?

 一応さっきまで命の危機だったんだろ? それに、うちの三人も死んだらしいじゃん」


「だから、それも含めてごめんね?」


「アンタには喋ってねぇよ……てか人形がどうやって喋ってんだよ!」


 お、おう……このNPC、結構お厳しい。

 いや、私も配下とかいうシステム知ってたら彼らもそうしてあげても良かったなーとか思ってるんだよ?

 特に、一番機転が利きそうだった彼とかは。


「まあまあ、落ち着きなってキューレ。

 それよりもボス、何かしないといけないんじゃなかったですか?」


 クガルがボケ、キューレがツッコむ。そのキューレを諭しつつ、クガルが私に聞いてくる。


「そうそう。まだ私のチュートリアルが終わってないんだよね」


「ちゅーと……りある? なんだそれ?」


 そうか。彼女らはNPC……ゲームの世界の住人だから、ゲームシステムのようなメタ要素を知らないのか。

 折角だし、この世界が作り物の世界ということをNPCに教えたらどういう反応を取るのか調べてみよう。


「チュートリアルっていうのはね、この世界の外からやってきた人間がこの世界に馴染むための訓練みたいな概念だよ。

 そして私はまだその訓練を終わり切れていないんだよね」


「じゃあ、さっさと終わらせちまおうぜ。早く、この薄気味悪ぃ森からぬけだしたい」


「ということでサ声くん、次のチュートリアルに進もうじゃないか」


 三人もいるのだ。絶対にすぐ終わるに決まっている。


《はい。只今よりチュートリアル最終段階『ゲームプレイ上の注意と提示』を始めます。

 ではカイ様、お手元の参考資料を御覧ください♪》


 手元の参考資料なんてどこにも……ん?


「なんで私、こんな紙束持ってんの?」


「すごいですね。今のが神の奇跡ってやつですか」


「紙だけに?」


「はい」


 ……。


「す、すごかったぞ? 急にボスの手の中にキラキラ光りながら紙が出てくるのは……」


 キュールちゃん、なんやかんやでいい子だなぁ。無理に場の空気を変えようと頑張ってくれている。


《…………開始してよろしいですか?》


「えっ、あっ、うん。始めていいよ」


《では、改めまして『ゲームプレイ上の注意と提示』を開始いたします。

 

 まず初めに『Rebellion』の世界についてです。

 この世界は様々な人族とそれ以上に多種多様な魔物が生息しています。人族は『職業』を持ち、魔物は『進化』を行い、互いに成長していきます。しかし、個々の力が強い魔物が現在はテリトリーが広いようですね。

 次に大まかなゲームシステムについてです。

 ゲーム内のすべてのモブは経験値を消費して成長します。その経験値はあらゆる行動で獲得できますが、同じ行動ばかりを行うと獲得できる経験値の量は下がります。

 また、ゲーム中は『メニュー』からゲーム内SNSを使用することが可能です。こちらはIDとパスワードさえあれば現実側からでもログインできますので、存分にご活用ください。

 最後に採用されている倫理感についてですが、この世界の倫理観は現実と全く異なるものです。

 人は必ずしもヒトの姿をとるわけでなく、魔物にも同様のことが言えます。

 見た目に騙されず、本質を見極め、常にご自身の心のままに行動してください。そして、現実に戻った際にゲームの世界との混同を避けることには特に注意してください。

 以上以外の質問がございましたら、『メニュー』の『ヘルプ』をご活用ください。あなた専属の管理・サポートAIが対応いたします。


 ……はい。説明を終了しました♪

 そして、おめでとうございます! すべてのチュートリアルを完了いたしました。

 準備が整いましたら、もう一度お申し付けください。初期スポーン地点へ転移いたします》


 サ声くんの長々とした説明が終わる。

 というかこの説明、チュートリアルの一番最初にするべきではなかろうか。

 チュートリアル中に私が知りたかったような内容がいくつかあった気がするんだけれど。


「サ声くん、転移前の最後に一ついいかな?」


《はい。なんでしょうか?》


「私は転移するから良いとして、この二人ってどうすれば良いの?」


《そうですね。少々お待ち下さい。

 ………………。

 はい。プレイヤー本人以外の転移はシステムの都合上、認められないようです。

 代わりと言ってはなんですが、カイ様の初期スポーン地点より近場の街に転移させることは可能なようです》


「そうかぁ。無理っぽいかぁ」


「仕方ない。二人には悪いけど、私が街に入るって時のために先に行っててもらおうかな」


「承知しました。その際はボスに街一つ差し上げることができるように不肖クガル、精一杯の努力をいたします」


 大げさだなぁ。

 街単位だと色々と面倒になることが目に見えているから宿一つぐらいで十分だよ?


「しゃあねえな。私はクガルの手伝い以外はやらねぇからな?」


「うん。二人ともよろしくね。

 ……あ、聞くのを忘れるところだった。クガルさ、『メッセージ』の取り方教えてくれない? 多分だけどそれでいつでも連絡できるよね?」


「わかりました。ではお手を出していただけますか?」


 クガルの言われるままに右手を差し出す。

 あ、これ、傍から見たら宇宙人との交信みたいに見えそう。

 クガルが私の手を握り、何かボソボソと呟く。


《メッセージは届きましたか?》


「うわっ、この声……もしかしてクガル?」


「はい。無事に受け取っていただけた様で何よりです。

 これで『メッセージ』が習得できるかと思います」


 本当だ。習得可能な技能欄に『メッセージ』が新しく入っている。早速取っておくとしよう。


「『メッセージ』は言葉を届けたい対象をイメージしながら発した言葉を直に相手に届ける『技能』です。遠くからでも使うことが可能で消費MPも極僅かなので、とても便利な『技能』なんです。

 ただ、相手側から嫌われていると扱うことができないのでご注意ください」


 嫌われていたら使えないって……なんかあやふやな説明だなぁ。あ、でもこれってSNSのブロック機能と一緒か。


「これと同じように、覚えておくと便利な『技能』が数個ありますのでお教えしますね」


 便利系技能!『収納』や『メッセージ』に続くぐらいのいいものだといいな。


「まず一つ目が『マップ』ですね。発動している間は常にご自身が移動された場所を勝手に記録してくれる優れモノですね。僕達盗賊なんかは真っ先に習得させられる『技能』です」


 なるほど。あ、これ、『メニュー』に含まれているな。

 もしかして『メニュー』も『技能』扱いだったりするのだろうか。


「その次が『鑑定』ですね。消費MPは少し多いですが、成長させていけばとても便利になると聞いています」


 おお! 有名どころきちゃー!


「『聞いています』って、クガルは取ってないの?」


「はい……何せ習得に必要な経験値が多いので……」


 マジか。この手のゲームなら絶対に取って損はないのに。


「それ、取っといた方が良いやつだよ。経験値が貯まったらすぐに取っといて」


「承知しました」


「あ、『鑑定』なら私が持ってるぞ? なんなら、成長限界まで達してる」


「「えっっ」」


「何なんだよ二人してそんな驚いて……別に良いだろ持ってたって。結構便利なんだよ。他人のステータスとか覗き見できたりするしさ」


 マジかキュールちゃん。

 オラオラ系のお姉さんだと思ってたら、まさかの知識欲高めで覗き魔だったのか……!


「キュールちゃん……覗きは捕まる前にやめようね?」


 この娘、お姉さんキャラの割に結構若いからまだやり直せるはずなんだ。


「いや、そんな頻繁にやってないし、やってバレるような相手にはそもそも仕掛けてねぇよ」


「キュール、あなたなんで持ってたことをずっと一緒だった僕に言ってくれなかったんですか!?

 事前に言ってくれてたら組織から抜け出す手筈も変わってたでしょうに……」


「いいだろ、別に。たまたま話すタイミングが無かっただけなんだしよ……」


「それでも……!」


「クガル。多分だけど、束縛系な彼氏はいつかフられるよ?」


「うっ………………はい。すみませんでした、キュール」


「いいよ。それよりも、クガル。お前も『鑑定』は取っておいて損はないぜ?

『鑑定』は他が見える化することが便利がられてるけど、同時に自分のステータスも詳しく見えるようになってくるんだ、これが」


 そうなのか。だとしたら、さらに取っておく必要性が出てきたな。


「じゃあクガル、君も経験値が貯まったら絶対に取っとくと良いだろうね」


「はい。しっかり取って限界まで伸ばしておきます」


 いちいち大げさだな、彼は。

 

「これぐらいかな、今話しておくことは」


「ああ」 「そうですね」


「よし、サ声くん。このチュートリアルを終わらせようじゃないか!」


《はい。チュートリアルを終了いたします》


 その瞬間。私たちの視界はホワイトアウトした。

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