第37話 不可能の文字は無い

「朝食のご用意をしてもよろしいですか?」


メイドがオレの方を向いた。


「あぁ、もらおうか。 キミはどう?」


「うん、アタシも良いよ。もうおなか空いちゃったし。」


「かしこまりました。準備致します。」


コーヒーサイフォンの前に居るメイドを一人残して、他のメイド達が部屋を出て行った。


「ねぇ、アタシたちいつまでここに居られるのかな?」


「ガラハッド団長は「今夜は泊ってけ」って言ってたから、多分、朝飯までで終わりだろ。」


「そうなの? ここ、気に入ったんだけどな。」


「そりゃそうだろ。ヴァルトベルク宮殿のゲストルームだからな。まぁ、一泊できただけでも珍しい経験が出来て良かったろ。これもオレのハードボイルドな・・」


「はいはい。ハートブレイクでパンティな、友達のいない孤独なリゾット探偵様の丘でですね、ありがたや、ありがたや。」


「だから、人が喋ってる上から被せるなって。 いや、だから、友達いないとか言うなよ。」


メイド達が料理を載せたワゴンを押して戻ってきた。


テーブルに料理が準備させれていく。

クロワッサンとハーブバター、白いオムレツとサーモンの薄切り、ポーチドエッグのレモンソースがけ、人参、ブロッコリーのサラダ、コンソメスープ、ヨーグルト。


シンプルだけど、しっかり手間暇かかった料理って感じだな。


「うわぁ、このパン温かいんだ。」


「そりゃ宮殿だから、ここで焼いてる、焼き立てパンだろ。」


「そっか、アタシ、焼き立てパンも初めて食べるよ。 あ、サクサクでフワフワだ、バターの香りもするんだ。パンってこんなに美味しかったんだね。 牢獄では堅くてボソボソしたパンしか出てこなかったから、あれがパンだと思ってたよ。」


「よかったな、色んな新しいものが食べられて。」


「ホントだよ、貴方と一緒に脱獄して良かったかも、だね。」


「かも、じゃないだろ。」



朝食を食べ終えて、食後の紅茶を飲んでるところへガラハッド団長が入ってきた。


「おはよう、アサクラ殿、ニーニャ殿。 ゆっくりと身体を休められたかな?」


「おはよう、ガラハッド団長。 あぁ、久々にゆっくり眠ることができた。なにせ情報収集活動は常に危険と隣り合わせで、ゆっくり眠れる機会が少ないから、助かったよ。」


「そうか、お役に立てたのなら光栄だ。本当はもう少しゆっくり滞在してもらいたかったのじゃが、生憎と今夜から来賓がここを使う予定がはいっておっての。」


「いや、一泊だけでも十分堪能させてもらったよ。」


「あぁ、早速だが、依頼されておった、貴殿とニーニャ殿の宮廷広報のIDが出来た。それと活動資金として100万WD、こっちはニーニャ殿の給与分の30万WDじゃ。引き続き、盗賊、強盗団の調査をよろしく頼むぞ。」


テーブルの上にIDと金貨が置かれた。


「あぁ、任せておいてくれ。アサクラの辞書に不可能の文字は無いからな。」


 宮殿を出て、街に来た。オレは帰ってきた。アイム・バック、だ。


「まずは宿を探そう。商売柄、同じ宿に泊まるのは一週間までと決めてるんだ。」


「商売柄? 貴方って探偵さんよね? なんで宿を変える必要があるの?」


「おいおい、オレを“探偵”ってカテゴリーでくくるのはやめてくれ。

俺の仕事は、真実を暴く――それだけだ。

依頼人が望もうが望むまいが、真実は牙を剥く。

だから、国家だろうが財閥だろうが、オレの存在が煙たいのさ。そもそもオレは常に組織に狙われてるしな。」


「組織に狙われてる? なんの組織なの?」


「それは聞かない方が良い。それがキミのためでもある。」


ネコ娘がすっとオレの両手に向けて手を伸ばしてきた。


あ、こいつまたオレの記憶を見ようとしてやがる。


さっと手をひっこめた。


「おっと、もう一度警告しておく。この記憶は知らない方が良いぜ。」


「ふーん、まぁいいわ。で? どこの宿にするの?」


ネコ娘がなんだか微妙な目でオレを見てる。


「そうだな、オレの今までの経験から、可も不可も無い、丁度良い宿ってのは大抵繁華街からちょっと奥まった場所にあるんだ。」


ネコ娘を繁華街を歩く。


「ヴァルトベルクの街って凄く栄えてるんだね。ヴァンダニアの街はこんなに店が並んでないんだよ。」


「そうなのか。オレはヴァンダニアでは監獄から脱獄した時に、裏路地を歩いただけだから、全然街の印象は残ってないな。」


「そうだったね。でも、あの時はドキドキしたよね。走ったら目立つからって、早歩きしたりしたもんね。」


「あぁ、競歩みたいで余計目立ってたかもだけどな。」


「特に、巡礼者と一緒にゲートくぐった時なんて、貴方、片手挙げてちゃんと巡礼者のマネしてたもんね。アタシ、後ろで見てて笑いそうになっちゃたよ。」


「オレのあの演技力のおかげで無事にゲートを抜けられたんだぞ? ああいうのをアカデミー賞級の演技っていうんだぞ。」


「いや、手挙げただけでしょ アハハ。」


「あの手の微妙な角度とかが、難しいんだよ、分かってないな。」


あ、誰かと喋りながら歩くって楽しいな。もしかして、友達ってこんな感じなのか?


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