異世界ライフはヤンデレに囲まれて 〜弱キャラ救済に魂を燃やすゲームオタクは不遇ジョブを放っとけない〜

石の上にも残念

第1話 地味顔クラスメイトの手作り弁当

「おいしい?」

コテンと首を傾げるのは、夜俳ヤバイクスリ。

小動物的な愛嬌のある女の子だ。


「美味しいよ」

クスリの作ったお弁当を頬張り、頷く。

少し甘みの強いの卵焼きが、トレーニングで疲れた身体に沁みる。


ここは屋外訓練場に隣接した休憩広場の一角。そこにレジャーシートっぽい敷物を敷き、クスリの作ったお弁当を食べている。


「かるえふと王国に召喚された時はどうなるかと思ったけど、案外平和で良かった」

そう。僕たちは修学旅行に向かうバスに乗ったままクラスごと、ここカルエフト王国に召喚されたのだ。


「でも打保うつほ君のことは心配じゃないのか?」

「つきや君?」

「幼馴染だろ?」

「そうだけど……でも私に出来ることはないしね」

「まあ、そうだけど」

クラスメイト三十人と、担任、副担任、後、バスの運転手さん、バスガイドさんの三十四人は召喚された時に、スキルを獲得している。


その中でも、優秀なスキル――Aランク以上のスキルを獲得した五人の生徒とバスの運転手さんは、召喚の目的である魔王軍との戦争のため前線に駆り出されていった。


打保君は、その五人の生徒の中の一人で、か弱い女子は俺が守る!!と騎士道精神の塊みたいなワイルドなイケメン君で、クスリの彼氏だという噂だ。


クスリ本人からは家が隣なだけの赤の他人なのに、思い込みが激しくて迷惑とか、照れ隠しされていたが、あのワイルドイケメンに俺について来いなんて言われたら大抵の女子は惚れてしまうだろう。


まあ、六人ともチートみたいなスキルだったのでそうそう心配はなかろうが、しかし戦争の前線と言われれば不安である。


残留組である僕のジョブは【オールラウンダー】。

ほぼ全ての初級スキルを使うことが出来るという一見凄そうなゲーム序盤の便利キャラ、中盤以降は完全に器用貧乏で使い所のなくなりいつの間にかフェードアウトしているという残念ジョブだった。

ランクはE。

Eというといい感じだが、平たく言うと査定外である。

残念。


そして、クスリは【ポーショニスタ】。

ポーションが作れるというジョブだが、Bランクジョブ・アルケミストの下位互換で、ポーションしか作れない上に、必要な魔力もアルケミストより多く、更に基本ステータスがアルケミストより低い。

うむ。残念なジョブだ。

こちらもEである。

地味な彼女に相応しい(失礼)ハズレジョブと言えるだろう。


いや、クスリは地味なだけなのだ。

ダサい黒縁の瓶底メガネを外して、寝癖だらけのボサボサ頭を直せば相当に可愛い。

こっちに来て時間に余裕があるからか、このお昼ご飯の時は変身モードのクスリなのだ。


更に意外と着痩せするタイプで胸部装甲がイメージ以上に重装備だったりするんだけどね、クスリ。


ほら、今もこぼれたソースを拭くために無防備にボタンを緩めると、ドカンと存在感が……。

すっげ!!

純朴な彼女らしく、僕の目の前で結構無防備になる。

目のやり場に困る。

それ、ソースじゃなくてほくろじゃないかな?


いや、見てないよ?

たまたま見えちゃっただけで……

こう、ドシッとしてるのに、グニュっとしてて、ムニュッと吸い付く……ってなんで触ったこともないのに生々しい感触を再現してるんだよ!僕の手は!変態じゃねえか!!


男性恐怖症っぽいクスリが僕ならばと安心してくれているというのに。

この信頼を裏切る訳にはいかない!!


……じゃなくて、えーと、なんだ?

そうだ。

しかし、弱キャラ救済が趣味のゲームオタである俺からすれば、こんなに救いがいのあるジョブはなかなかいない!というわけで世話を焼いている……というよりオタクの情熱が抑えきれず暴走しただけとも言うが……とかく、アレヤコレヤと試行錯誤を繰り返しているのだ。


鎮静剤だうなーぽーしょんの改良も進んでるの」

クスリは意外にも積極的で、僕から聞いたオタク知識を元にポーショニスタとしての実力を上げている。

「前のは甘みがエグすぎて、飲みにくかったでしょう?」


異世界の魔法薬は効果は折り紙付きなのだが、飲みにくかったり、副作用がきつかったりと色々使いにくいのだが、クスリはその改良を進めている。

「最新のはね、ちょっと甘みは強いんだけど、お砂糖ぐらいの甘さだから、気にならないと思う」


万能薬えくすぱんでっとぽーしょんの依存性もかなり解消されててね」

万能薬は、体力、魔力、気力、ケガの全てを回復させる文字通り万能なのだけど、強い依存性があって、常飲するとこれなしではいられなくなるという危険性がある。


「ゼロじゃないけど、毎日飲まなければ、渇望症が現れることはなくなったの。毎日飲んでも、ないと何だか落ち着かないってぐらいだけどね」

へへへと笑うクスリは可愛い。

そして、頭を少し下げる。

「凄いな」

少しぎこちなくその頭を撫でる。

馴れ馴れしさが凄まじいが、クスリは頭撫で撫でが好きらしい。


慣れない異世界で心細いであろうクスリを慰めずして、紳士は名乗れない!

そう、決して!

下心があるわけではないのだ!

これは善意だ!!

善意!

ぜ……


「………ん?」

あれ?寝てた?

いや、そんなわけないか?

「どうしたの?」

気が付けばお弁当箱は片付けられている。


「大丈夫?」

心配そうに覗き込むクスリの顔が少し赤い気がする?

妙に色っぽい。

「あ、いや。大丈夫。午前中頑張りすぎたかな?ハハハ。でもお弁当食べたから!クスリのお弁当は凄いよね、食べると元気が湧き出して来る気がするよ。ごちそうさま!」

「へへへ。……私こそゴチソウサマ」

「へ?」

「え?」

「いや、なんでもないよ?」

「へへへ。明日も用意するね」

「あ、うん、そうだね。嬉しいよ」

すっかりクスリにお弁当を用意して貰うことに慣れてしまったのか、お弁当がないと何か落ち着かない。

「へへへ。私も食べて貰えて嬉しい」

麗らかな午後の日差しが逆光となった、クスリの顔はよく見えなかった。


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異世界ライフはヤンデレに囲まれて 〜弱キャラ救済に魂を燃やすゲームオタクは不遇ジョブを放っとけない〜 石の上にも残念 @asarinosakamushi

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