嘘の章︰―③―

 ▽▽▽



 翌朝、二人は早めに身支度を済まし、太陽が昇り始めた頃には宿を出て村を探索することにした。


 村人は穏やかな気質の者が多く、余所者を暖かく迎え入れてくれる。そんな長閑な村だとルシェンテはベルムナートから聞いていた。



 二人が宿屋を出て歩いていると、村の子供達が三人ほどルシェンテ達の前に現れたのだった。


「あ! きれいなお姉ちゃん!」

「お洋服もきれー!」

「街から来たの?」


 子供達はそう言ってルシェンテとベルムナートに屈託のない笑顔で話しかけてきた。


「うん、そうだよ」

 ルシェンテは少し膝を折り子供達と目線を合わせながら答える。ベルムナートもそんな様子を微笑ましげに見ていた。


 すると子供達の一人がベルムナートの服の裾を引っ張った。

「ねえ、お姉ちゃん。こっちの金髪のお姉ちゃん美人さんね!」

「うん、可愛いでしょー!」

 ベルムナートはそう言うと、子供達にルシェンテの可愛さを自分の事のように自慢するのだった。


「ふふ……」

 ルシェンテはそんな二人のやりとりを見て笑みを零す。するともう一人の女の子が言った。

「リル姉ちゃんとどっちが美人さんかなー?」

「あら? あたしは美人じゃないの?」

 ベルムナートはそう言うと、女の子の頭をコツンと小突く真似をする。


「えー!? お姉ちゃんも可愛いよお?」

「あはは! 嘘よ、冗談!」


 ベルムナートが笑うと女の子も楽しそうに笑った。

 そして、話の間を見てルシェンテが優しく質問する。


「さっきの、リルお姉ちゃんって、どなた?」

 ルシェンテがそう訊くと、女の子は少し困った顔をして答えた。


「んー……リル姉ちゃんはね、前はよく遊んでくれたんだけど、最近はおうちで寝てるよ」

「病気なの?」

「ううん……お仕事で疲れてるんだって」

 ルシェンテの言葉に女の子は少し悲しげに答えるのだった。


「そっか……あなた達が言うように、きっと素敵な人なんだね」

 そんな女の子を元気付けるように、ルシェンテはそう言って優しく微笑んだ。すると女の子は嬉しそうに笑って言った。


「うん! 領主さまの召し使いなんて、きれいじゃなきゃなれないって、うちのお父ちゃんが言ってた!」

「リルさんは、召し使いをされてるの?」

 ルシェンテがそう訊くと、女の子は得意そうに答える。

「うん! お姉ちゃんはね、偉いんだよ! この村の領主さまのお世話してるんだから!」

 そんな女の子の言葉にルシェンテは感心したように言った。


「それは凄いね……君の自慢のリルさんとお話してみたいな」

 そう言うと子供達は嬉しそうにはしゃぐのだった。

 そしてルシェンテとベルムナートをリルと呼ばれる女性の下へ案内すると言う。

 ルシェンテとベルムナートが無言で顔を見合わせ、頷きあった。



「こっちだよ! こっち!」

「早く早くー!」

 子供達はルシェンテとベルムナートの手を引っ張って、村の端にある小さな家へと連れて行ったのだった。

 

 子供の一人がその家の扉を叩くと、中から一人の女性がゆっくりと気怠げに出て来た。


 その女性は桃色の長い髪を腰まで伸ばしており、その素朴でありながらも美しい顔立ちには親しみ易さが感じられる。歳は二人より上で二十歳前後と言ったところか。


「おはようリルお姉ちゃん! 寝てた?」

 子供たちが元気よく女性に挨拶する

「お、おはよう…大丈夫よ。今日はどうしたの?」

「お姉ちゃんにお客さんだよ!」

 子供たちはそう言うと、ルシェンテとベルムナートの手を引いてリルと呼ばれた女性の前に立たせた。


「初めまして。突然の来訪失礼します。僕はルシェンテと言います」

 ルシェンテはハッキリと女性の目を見て挨拶をする。すると女性は少し伏し目がちに言った。


「…エイプリル、です…あの、何かご用でしょうか?」


 エイプリルと名乗った女性はあからさまに警戒した様子で二人を見る。ルシェンテは少し寂しそうに微笑むと、穏やかな口調で言った。


「ええ、実は貴女あなたにお話がありまして……」

「わたしに?」

 エイプリルは不思議そうな表情で首を傾げた。そして子供達も興味津々といった様子で二人の顔を交互に見るのだった。

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