僕たちはまだ友達?
Tokitoo
第1章で終わる
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**(友情、絆、そして揺れ動く感情の物語—— 親友でいること、それだけで本当に十分なのか?)**
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私立高校・シーナザル学園は、才能ある生徒たちが集まる名門校。
そして、その中でもひときわ注目を浴びる存在—— それが **「赤司陽向(あかし ひなた)」** だった。
彼は誰にでも優しく、温かい笑顔を持つ人気者。
「陽向くん!今日、一緒にお昼食べない?」
「陽向様!土曜日のバスケの試合、応援に行くね!」
女子たちは毎日のように彼を追いかけていた。
けれど、そんな彼が **いつも一緒に帰る相手** はただひとり、**「美亜(みあ)」** だった。
美亜は特に目立つ存在ではなかったが、ほんのりとした美しさを持つ普通の女の子。
そして彼女だけが知っていた。
—— 陽向がみんなに見せる笑顔と、本当の笑顔は全く違うということを。
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「なんでみんな、あんたのことをそんなふうに見るの?」
帰り道、美亜がぽつりと尋ねた。
「どんなふうに?」 陽向は首をかしげる。
「まるで…陽向が彼らの王子様みたいに」
陽向はくすっと笑い、軽く肩をすくめた。
「だって、俺はいい人だから?」
「自分で言うな」 美亜はため息をついたが、ふと真剣な顔になった。
「じゃあさ、どうして私はあんたの親友なの?」
陽向は歩みを止め、美亜を真正面から見つめた。
「それは—— だって、お前は『美亜』だから」
「…何それ」
彼女は小さくつぶやいた。でも、心臓の鼓動は隠しきれなかった。
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陽向は知らなかった。
美亜がいつからか、**この関係に疑問を抱き始めていたことを**。
—— 彼が自分に向ける笑顔は、他の人と同じなのだろうか?
—— 一緒に帰るのは、ただの「習慣」だから?
—— それとも、もしかして…
けれど、彼女が「友達以上」を期待しそうになるたび、陽向は必ず **彼女を現実に引き戻すような一言** を投げかけてくる。
例えば、今日——
「美亜、お前って誰か好きな人いるの?」
「えっ、なんで?」
「ただ、気になっただけ」
美亜は彼を見つめる。「じゃあ、あんたは?」
「俺?」 陽向はふっと微笑む。「…わかんない」
—— そして、その **「わかんない」** という言葉が、美亜の小さな希望を何度も砕いてきた。
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彼女はわかっていた。
**この気持ちは抱いてはいけないものだ**。
**親友の優しさに、心を揺らしてはいけない**。
でも、どうしても避けられなかった。
—— 陽向が、他の女の子と一緒にいるところを見てしまうたびに。
今日もまた——
「陽向様!今日、映画観に行こうよ!」
「うん、いいよ」
軽く返事をする彼を見て、
美亜は何事もなかったかのように背を向け、ひとり帰ろうとした。
だけど、すぐに陽向の声が追いかけてきた。
「美亜、待って!」
「…え? 映画行くんじゃなかったの?」
「行くよ。でも、その前にお前を送っていく」
—— それが問題だった。
陽向はいつもこうだった。
**手を伸ばせば届きそうな距離にいるのに、決してその一線を越えようとはしない**。
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そして、ある日——
「陽向くん、私と付き合ってくれませんか?」
**それは、美亜が偶然聞いてしまった告白だった。**
告白の主は、**佐木(さき)先輩**。
三年生で、完璧な美しさを持つ女子生徒。
美亜はその場を立ち去るべきだった。
でも、どうしても足が動かなかった。
そして、陽向は少しの沈黙のあと——
「…うん」
そう、答えた。
---
美亜は涙を流さなかった。
それは、**泣く理由がわからなかったから**。
怒る資格もない。
だって、彼は何も約束していない。
悲しむ資格もない。
だって、彼にとって自分は「ただの友達」。
でも、一つだけ確かなことがあった。
—— 彼はもう、自分の知らない世界に行こうとしている。
**「私は、彼にとって ‘特別’ だったことが、一度でもあったの?」**
---
陽向は気づいた。
**何かが変わってしまったことに**。
美亜はもう、一緒に帰ってくれない。
冗談を言い合うこともなくなった。
何より—— 彼を見つめる目が、以前とは違っていた。
「お前、なんか変だよな」
「別に」 美亜は笑う。「ただ、彼女にもっと時間をあげたほうがいいと思っただけ」
陽向は「違う」と言いたかった。
でも、**そんな資格はないこともわかっていた**。
**選んだのは、自分だったから。**
そして——
**「もう ‘親友’ ではなくなってしまった」**
---
**その後——**
陽向は佐木先輩と付き合い始めた。
美亜は… ただ、前を向くことができなかった。
でも、そんな彼女の前に現れたのが **「涼(りょう)」** だった。
彼はクラスメイトだけど、今まで特に意識したことはなかった。
派手でもなく、胸をときめかせるような存在でもない。
でも、彼は **まるで神様が送ってくれた慰めのように** そばにいてくれた。
涼は何も聞かない。
過去を掘り返すこともなく、無理に笑わせようともしない。
ただ、そばにいてくれる。
**冗談に笑ってくれて、涙が出たときは黙ってティッシュを差し出してくれる。**
彼といると、不思議と **胸の痛みが少しずつ和らいでいく**。
—— もしかしたら、涼は誰かの代わりにはなれない。
でも、彼は **彼女が「一人じゃない」と気づかせてくれる存在だった。**
**—— それだけで十分だった。**
---
**(終わり)**
By **Tokitoo**
僕たちはまだ友達? Tokitoo @Tokitoo
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