第9話
夏月はエレベーターの鏡に自分を映し、今日のコーデを眺めた。黒いティーシャツにショートパンツの、至ってシンプルな装いである。足許は歩きやすいスニーカーだ。美海が好むようなヒールは、とてもではないが履きこなせないためだ。髪型さえ、シニヨンに結える美海とは違い、肩までのストレートヘアを櫛でとかしただけだった。
鏡越しに扉が開き、夏月は咄嗟にエレベーターを出ようとした。だが、階数表示はまだ七階だったため、夏月は寸前で留まった。腰の曲がった老婦人を受け入れ、扉を閉めようとしたところでもう一人滑り込んでくる。色白の肌と、毛先にかけてうねったロングヘアで、すぐに誰であるか気付いた。
「凪子、そんなに急ぐと裾を挟むわ」
「あら、夏月じゃない。ごきげんよう」
凪子はオフショルダーにマキシムスカートといった格好で、朱色の際立つリップを引いている。すでに購入した品物の袋を幾つも腕に提げているところを見ると、大方買い物は済んだのだろう。
エレベーターは二人を八階に届けると、老婦人を屋上のテラスレストランへ連れていった。夏月は隣を歩いてくる凪子が気にかかったが、そのまま小説コーナーへと向かった。
本棚いっぱいに収まった書籍からは、紙とインクの真新しい香りが漂ってくる。心なしか、交通量の多い外の空気よりも清々しい。夏月はこの独特の空間が好きなのだ。もちろん、古本屋に漂う年季の入った匂いも嫌いではない。
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