第7話

五分間の休憩のあと、空気はがらりと変わり周りに緊張感が漂う。事件のことで騒いでいたのが嘘のようだ。

「では、開始してください」

 若い男性教師の張りのある声に続いて、名前を一斉に書く音が教室中に広がる。雨音は遠のき、微かな吐息と筆記用具の擦れる音が絶え間なく聞こえるばかりだ。

 試験の間、夏月の視線はときおり前方へ移ろった。美海が肘をついて考え込む瞬間や、一度書いた解答を消す度に、後頭部で高く結い上げた髪がうなじで軽やかに揺れる。真っ白いシャツから覗く頸筋は、古い蛍光灯の下でさえ新鮮に映る。

 夏月は再度、美海を盗み見ようとした。だが、横方向から投げかけられた視線がそれを赦さなかった。凪子である。彼女は鉛筆を持ちながら、横並びの夏月を見つめていた。

 夏月が視線を囚われていると、微笑みを湛えた薄紅色の唇がゆっくりと変形する。意味を考えているうちに、凪子は止めていた手を再び動かし、試験に集中していた。試験監督である担任は、そんな生徒たちの些細なやり取りには気付かず目を伏せている。

 夏月は、早くも全ての解答を埋めた答案用紙に視線を落とし、凪子の言葉を唇で辿った。


 み、う、は、わ、た、し、の。


 確かに唇はそう動いていた。

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