第5章:最強ドラゴンの脅威(1)

 スチームギアの街が朝日に照らされるなか、俺は愛車「ドラグブレイザー」のメンテナンスをしていた。

 タンクには赤と青の紋様が複雑に絡み合い、炎と氷の力を宿した証が刻まれている。

 バイクを拭く布が光沢のある黒い車体の上を滑る度に、タンクの紋様が脈打つように明滅した。


「相棒、調子はどうだ?」


 俺は小声で話しかけた。

 バイクはまるで応えるかのように、エンジンをかけていないのに微かに震えた。

 異世界に来てから、このバイクは明らかに変わった。

 単なる機械から、魂を宿した存在へと。時々、竜の唸りのような音を立てることさえある。


「おはよう、烈火!今日も早いのね!」


 明るい声が背後から聞こえ、振り返るとリアナが立っていた。

 水色の髪をポニーテールにまとめ、背には大きな弓と矢筒を背負っている。

 森の色合いを基調とした軽装で身を固め、その身のこなしは猫のように軽やかで無駄がなかった。

 アクアマリンのような薄い青緑色の瞳は、いつもと変わらず好奇心と冒険心に満ちていた。


「おはよう、リアナ。お前も早いな」

「森の民は日の出と共に活動を始めるものよ」

「おはようございます、烈火さん、リアナさん」


 優しい声がして、エルナが工房に入ってきた。

 白と水色のローブを身にまとい、長い茶色の髪を後ろで一つにまとめている彼女は、いつも通り穏やかな笑顔を浮かべていた。

 腕には治療用の薬草が入った籠を抱えている。

 緑色の瞳には優しさが宿り、その存在自体が周囲に安らぎをもたらす不思議な力を持っていた。


「おはよう、エルナ。朝の薬草集めか?」

「はい。朝露のついた薬草は効能が高いので」


 エルナは微笑みながら籠を見せた。

 中には様々な色の薬草が丁寧に並べられている。


「それより、今日はギルドからの依頼はありましたか?」

「いや、特にないみたいだ」


 俺が答えると、リアナが身を乗り出した。


「実は、重要な情報があるの」


 彼女の表情が突然真剣になった。

 普段の明るさとは打って変わり、情報屋としてのプロの顔だ。


「昨夜遅く、情報筋から連絡があって」


 リアナは周囲を見回し、声を落とした。


「ドラゴン崇拝教団の動きをつかんだわ」


 ドラゴン崇拝教団。

 ヴァレンティア領で遭遇した危険な秘密結社だ。

 彼らは竜神を復活させようとしており、そのために竜の核』を探している。

 つまり、俺のバイクを。


「詳しく話してくれるか?」


 リアナは頷いた。


「できれば全員集まったところで説明したいわ。ソフィアとロゼッタは?」

「ソフィアなら、冒険者ギルドに報告書を提出しに行ったはずだ」


 俺が答えると、エルナが続けた。


「ロゼッタさんは……」


 彼女の言葉が終わる前に、爆発音と共に工房の奥から黒い煙が立ち上った。


「大丈夫っ! 何でもないので!」


 慌てた声と共に、煙の中からロゼッタが現れた。

 赤みのある茶色の短髪は煤で黒くなり、顔の一部も黒ずんでいる。

 しかし黄緑がかった瞳は相変わらず好奇心に満ちて輝いていた。

 首からぶら下げたゴーグルも煤で曇っている。


「また爆発か?」


 俺が呆れて尋ねると、ロゼッタは苦笑いした。


「ちょっとした実験が……予想外の反応を示しただけなので」


 リアナがクスクス笑いながら言った。


「相変わらずね、ロゼッタ。どんな実験だったの?」

「実は……」


 ロゼッタは興奮した様子で説明を始めようとしたが、工房の入り口でノックの音がした。

 振り返ると、ソフィアが立っていた。

 白銀の長髪を後ろで束ね、軽装の鎧を身につけたソフィアは、青灰色の瞳で皆を見渡した。

 彼女の表情はいつも通り冷静だが、どこか緊張感を漂わせている。


「お前たち、朝から騒がしいな」

「ソフィア、丁度いいところに!」


 リアナが声を上げた。


「重要な情報があるのよ」

「ドラゴン崇拝教団についてか?」


 ソフィアの鋭い質問に、リアナは驚いた表情を浮かべた。


「どうして知ってるの?」

「今朝、ギルドで噂を聞いた」


 ソフィアは真面目な表情で言った。


「それで戻ってきたところだ」

「みんな揃ったところで、詳しく聞かせてくれるか?」


 俺の問いかけに、リアナは頷いた。


「そうね。まずは朝食でも取りながら話しましょうか?」

「賛成!爆発で腹が減ったっス!」


 ロゼッタの言葉に、全員が笑った。


 ◇


 街の小さな食堂で朝食をとりながら、リアナは情報を共有した。


「教団が次に動くのは竜の火山』と呼ばれる場所よ」


 彼女は周囲を警戒するように見回してから、小声で続けた。


「ここから三日ほど東にある活火山。伝説によれば、古代の竜神が眠る場所だとされているわ」

「そこで何をするつもりだ?」


 俺が尋ねると、リアナの表情が一層真剣になった。


「竜神覚醒の儀式』を行うつもり。明後日の満月の夜に」

「竜神?」

「紅蓮竜バルドラス」


 リアナの言葉に、なぜか俺のバイクのタンクに刻まれた紋様が頭に浮かんだ。

 紅蓮……炎の紋様は確かに紅蓮の炎のようだった。


「その竜と、俺のバイクに何か関係が……?」

「その通り」


 リアナは身を乗り出して言った。


「私が入手した古文書によれば、竜の核は竜神の力の一部。それを持つ者は、竜神を操ることができるとされてるの」

「つまり……」

「あなたのバイクが持つ竜の核は、バルドラスを操る鍵かもしれないってこと」


 ついに繋がった。

 だからドラゴン崇拝教団は俺のバイクを狙っていたのか。

 単なる力の源としてではなく、復活させる竜を支配するための道具として。


「バルドラスはどれほど危険なんだ?」

「伝説によれば、最強の竜と呼ばれ、古代に世界を脅かした存在」


 ソフィアが冷静に言った。


「その力は凄まじく、山さえも一息で溶かしたと記されている」

「どうやってその情報を?」

「ギルドの古文書庫で調べた」


 彼女は簡潔に答えた。


「だけど、もっと詳しく調べる必要がある」


 ロゼッタが真剣な表情で口を挟んだ。


「バイクの竜の核とバルドラスの関係がはっきりすれば、対抗策も考えられるね」

「みんな……」


 リアナが再び口を開いた。


「もう一つ重要なことがあるの」


 全員の視線が彼女に集まった。


「教団はすでに準備を始めているわ。何人かの強力な魔術師も加わっていて……」

「数で言えば、わずか数人のこちらが圧倒的に不利だな」


 ソフィアが冷静に分析した。


「でも、バイクがあるじゃない!」


 リアナは俺を見て微笑んだ。


「それに、私たちの連携は抜群よ。前回の任務でも証明されたでしょ?」


 彼女の言葉に、俺たちは互いに顔を見合わせた。

 確かに、ここ数週間で俺たちのチームワークは格段に向上している。

 

「まずは詳細な情報を整理しよう」


 ソフィアの提案に全員が同意し、リアナが持参した地図を広げた。

 竜の火山の場所や周辺の地形が示されている。


「ここが火山で、この辺りに教団の本拠地がある」


 リアナが地図上の一点を指さした。


「崖に囲まれた難所にあるから、簡単には近づけないわ」

「バイクなら?」


 俺が尋ねると、ロゼッタが考え込んだ表情で答えた。


「崖を登るのは厳しいけど、短時間なら飛行できるはず。でも、目立つから潜入には向いてないね」

「それに、彼らも警戒を強めているはずだ」


 ソフィアが冷静に分析した。


「烈火のバイクの噂は広まっている。特殊な対策を講じている可能性もある」

「じゃあ、どうすれば……」


 俺が悩んでいると、エルナが静かに口を開いた。


「潜入と強行突破、二手に分かれるのはどうでしょう」


 全員の視線が彼女に集まった。

 普段は控えめな彼女だが、時折見せる的確な判断には驚かされる。


「潜入組が内部から混乱を起こし、その隙に烈火さんたちが突入する……」

「それいいわね!」


 リアナが賛同した。


「私が潜入組に入るわ! 変装も得意だし、情報収集なら任せて!」

「危険すぎないか?」


 俺が心配すると、彼女は自信満々に胸を張った。


「大丈夫よ! 森での生活で身につけた隠密行動には自信があるわ!」

「では私も潜入組だな」


 ソフィアが静かに言った。


「万が一のための戦力も必要だ」


 彼女の判断は的確だ。

 リアナの情報収集力と、ソフィアの戦闘力。

 互いの弱点を補い合う組み合わせになる。


「私は烈火さんと一緒がいいです」


 エルナが優しく微笑みながら言った。


「回復魔法が必要になるかもしれませんから」

「私はバイクと一緒で!」


 ロゼッタは迷いなく言った。


「ただ、その前に……」


 彼女の目が期待に満ちて輝いた。


「新しい魔石の実装をしたいんだけど……」

「新しい魔石?」

「そう、雷の魔石っ!」


 ロゼッタの黄緑の瞳が興奮で輝いている。


「炎、氷に続いて、三つ目の属性! これが加われば、バイクの能力はさらに向上するはずっ!」

「危険じゃないのか?」


 俺が心配すると、リアナが笑いながら言った。


「大丈夫よ。私たちでロゼッタの計算もチェックしたし、魔石も上質なものを用意してある」

「え? いつの間に?」

「昨日の夜、二人で話し合ったのよ」


 リアナは得意げに言った。


「私が仕入れた情報と、ロゼッタの技術知識を合わせたら、完璧な計画ができたの!」


 バイクを見ると、タンクの紋様が微かに光った。

 まるで「試してみたい」と言っているようだ。


「わかった。雷の魔石の実装を頼む」

「任せて!」


 ロゼッタとリアナが同時に答えた。

 二人の息はすでに合っていて、まるで長年の仲間のようだった。


「明日の朝には終わらせるので!」

「その前に、もう少し調査が必要だな」


 ソフィアが真面目な表情で言った。


「竜の核の件だが……お前のバイクとバルドラスの関係について、もっと深く知っておくべきだ」

「ああ」

「今夜、街の図書館で古文書を調べるつもりだ。手伝ってくれるか?」

「もちろん」

「私も行きます」


 エルナも静かに言った。


「古代魔術の書物なら、少しですが読めますので」

「私たちは魔石の準備と研究に専念するわ」


 リアナがロゼッタと顔を見合わせながら言った。

 こうして、チームは二手に分かれることになった。

 俺とソフィア、エルナは夜に図書館へ。

 ロゼッタとリアナはバイクの強化を担当する。


「明日の朝に作戦会議、その後すぐに出発だな」


 ソフィアが決断した。


「今日一日で準備を整えよう」


 全員が頷いた。


 ◇

 

 ロゼッタの工房ではバイクの強化作業が始まっていた。

 リアナとロゼッタは二人で作業台を囲み、複雑な図面と魔石を検討している。


「この回路だと、魔力の流れが不安定になるわ」


 リアナが指摘すると、ロゼッタは頷いた。


「確かに。じゃあ、この部分を……」


 彼女は図面を書き直し始めた。

 二人の頭が近づき、互いの意見を交換しながら作業を進めていく様子は、見ていて心強かった。

 俺はバイクのそばに立ち、タンクに手を置いた。


「また強くなるぞ、相棒」


 タンクの紋様が脈打つように光り、竜の咆哮のような微かな音が聞こえた気がした。


「烈火さん」


 エルナが静かに近づいてきた。

 彼女の緑の瞳には心配の色が浮かんでいた。


「大丈夫ですか? 少し疲れているように見えますが」

「ああ、大丈夫だ。ちょっと考え事をしてただけさ」

「何か心配事でも?」


 彼女の洞察力は鋭い。


「実は……バルドラスと竜の核の繋がりが気になっている。もし本当にバイクが最強の竜の一部なら……」

「恐いですか?」


 彼女の質問は優しく、非難めいたところはなかった。


「恐いというより……何だか運命めいたものを感じる。俺がなぜ異世界に来たのか、バイクがなぜ変わったのか……それらは偶然ではないのかもしれない」


 エルナは静かに頷いた。


「私もそう思います。ですが……」


 彼女は穏やかな微笑みを浮かべた。


「それが運命だとしても、あなたはひとりではありません。私たちがいます」


 彼女の言葉に、胸が温かくなるのを感じた。

 確かに、この世界に来て出会った仲間たちの存在は大きい。


「ありがとう、エルナ」


 その時、工房の入口でソフィアが現れた。

 彼女の表情はいつも通り真剣だったが、手には何かの紙束を持っていた。


「事前調査をしてきた」


 彼女は紙束を広げた。

 それは「竜の火山」周辺の詳細な地図だった。


「ギルドの資料室から借りてきた。地形の把握は作戦の基本だ」

「さすがソフィア、抜かりないわね!」


 リアナが作業の手を止め、地図を覗き込んだ。


「この山道、私が前に調査したルートよ。隠れ道があって、教団の見張りを避けられるわ」

「本当か?」

「ええ。情報屋としての信頼にかけて」


 彼女はウインクした。


「南側からの潜入が最適ね。でも、北側の崖は急すぎて誰も近づかないから、そこからバイクで突入すれば意表を突けるわ」

「北側の崖……確かに険しいな」


 ソフィアが地図を見ながら言った。


「通常は近づけないだろうが、バイクの飛行能力を使えば……」

「可能性はあるっ!」


 ロゼッタが興奮した様子で割り込んできた。


「雷の力を追加すれば、バイクの浮力と推進力がアップするはず! 短時間なら崖も飛び越えられるはず!」

「どのくらいの時間だ?」

「計算上は……」

「また計算上か」


 ソフィアが呆れたように言ったが、ロゼッタは動じなかった。


「今回は絶対大丈夫っ! リアナも確認してくれたし!」

「それもそうか」


 確かにリアナが加わったことで、ロゼッタの実験の成功率は上がっていた。

 二人の相互チェックが機能しているようだ。


「さて、作戦の詳細を詰めよう」


 ソフィアが地図を工房の中央のテーブルに広げた。

 全員がその周りに集まり、それぞれの意見を出し合った。

 計画が形になりつつあるなか、外の空は徐々に暗くなっていった。


「そろそろ図書館に行くべきだな」


 ソフィアの言葉に、俺とエルナは頷いた。


「私たちはここで魔石の準備を続けるわ」


 リアナが言った。


「明日の朝には、新しいパワーアップしたバイクをお見せするわよ!」


 彼女の自信に満ちた表情を見ていると、期待と緊張が入り混じった気持ちになった。


 ◇

 

 夜の図書館は静かだった。

 ランプの明かりだけが古い本棚を照らし、独特の紙の匂いが漂っている。

 ソフィアは集中して古文書を読み、エルナは魔術に関する書物を丁寧にめくっていた。

 俺も手伝うつもりだったが、正直、古代語は全く読めない。


「何か見つかった?」


 俺はソフィアに尋ねた。

 彼女は真剣な表情で一冊の本を指さす。


「古代竜神伝説』という書物だ。バルドラスについての記述がある」

「どんな内容だ?」

「バルドラスは最強の竜と呼ばれ、古代に世界を脅かした存在だという。その力は凄まじく、山さえも一息で溶かしたと記されている」

「そんなやばいやつを復活させようとしてるのか……」


 ソフィアは頁をめくりながら続けた。


「しかし、最も興味深いのはこの部分だ」


 彼女が指さした箇所には、竜の絵と共に何やら複雑な紋様が描かれていた。


「この紋様……」

「ああ」

「バイクのタンクにあるものとそっくりだ」

「竜の核と呼ばれるものの象徴らしい。古代の勇者がバルドラスを封印したとき、その力の一部を核として抽出し、別の場所に封印したとある」


 これで繋がった。

 俺のバイクに宿る竜の核は、バルドラスの力の一部だったのだ。

 だからドラゴン崇拝教団は狙っている。


「烈火さん、ソフィアさん」


 エルナの声がした。

 彼女は別の本を手に持っていた。


「こちらにも興味深いことが書かれています」


 彼女は本を開き、ある箇所を指さした。


「竜の核を持つ者は、竜神を従えることができる……とあります。しかし、同時に警告も」

「警告?」

「はい。核の力を正しく扱えなければ、使用者も竜神の炎に飲まれると」

「つまり……」


 ソフィアが思案するように言った。


「教団は竜神を復活させ、竜の核でそれを支配しようとしている。だが、それには大きなリスクが伴う」

「しかし、烈火さんは竜の核と共鳴している」


 エルナが静かに言った。

 彼女の緑の瞳に浮かぶ光は、深い洞察に満ちていた。


「あなたとバイクの繋がりは特別です。だから、炎や氷の力を使いこなせている」

「俺とバイクの絆……か」


 確かに、バイクとの間には特別な繋がりがある。

 単なる乗り物ではなく、相棒として、時に生きた存在のように感じる。


「果たして、教団の者たちにそれができるだろうか」


 ソフィアが疑問を呈した。


「核の力を扱うには、単なる魔力だけでなく、精神的な繋がりが必要かもしれない」

「それはつまり……」

「彼らの計画は失敗する可能性が高い」


 彼女の言葉に、一筋の希望が見えた。


「でも、だからといって安心はできません」


 エルナが心配そうに言った。


「失敗したとしても、竜神が復活すれば……」

「世界が危険にさらされる」


 ソフィアが厳しい表情で言った。


「何としても阻止しなければならない」


 俺たちは黙ってうなずいた。

 状況は予想以上に深刻だ。

 単なる秘密結社の野望ではなく、世界の存亡にかかわる危機かもしれない。


「もっと調べましょう」


 エルナが決意を込めて言った。

 彼女の穏やかな表情にも、強い意志が宿っている。


「明日の準備のためにも、できる限りの情報を」


 三人は再び書物に向かい、夜更けまで古代の知識を探り続けた。


 ◇


 工房に戻ったのは深夜だった。疲れた表情で入った俺たちを、驚くべき光景が待っていた。

 工房の中央には、黄色い紋様が刻まれた雷の魔石が輝いていた。

 そして、ロゼッタとリアナは、作業台の上で互いに寄りかかり、眠っていた。


「頑張ったんだな……」


 俺は思わず呟いた。

 二人の顔には疲れの色が浮かんでいたが、安らかな表情で眠っている。


「無理をしたようですね」


 エルナが心配そうに言った。

 彼女は二人に近づき、そっと毛布をかけた。


「でも、本当に雷の魔石を準備してしまうとは……」

「あの二人の組み合わせは、侮れないな」


 ソフィアも珍しく感心した様子だ。


「明日の朝、きっと誇らしげに説明してくれるだろう」


 彼女の言葉には、わずかな温かみが感じられた。

 俺は魔石に近づき、その表面を撫でた。

 中から稲妻のような光が漏れ、指先に小さな静電気のようなものを感じた。

 これがバイクに実装されれば、新たな力が加わるのだろう。


「相棒、また強くなるな」


 俺がバイクに語りかけると、エンジンをかけていないのに微かに震えた。

 それは「ああ」と応えているようだった。


 その晩、俺たちも工房で休むことにした。

 明日は重要な日になる。

 雷の魔石の実装、そして竜の火山への出発。

 世界の危機に立ち向かうための第一歩だ。


 眠りにつく前、俺は窓から月を見上げた。

 明後日の満月……それまでに竜神の復活を阻止しなければならない。


「頼むぞ、相棒」


 俺はバイクに向かって小さく呟いた。


「俺たちの力で、この世界を守ろう」


 バイクのタンクが赤と青に明滅し、「任せろ」と応えているようだった。

 

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