第38話 我慢の限界です

 翌朝

「しまった、あまりにも体調が悪すぎて、そのまま意識を飛ばしてしまったわ。夜のうちに逃げ出すつもりでいたのに…」


 体調が悪すぎて昨日の夜は、爆睡してしまったのだ。今日も頭がガンガンするし、フラフラするし、思う様に体が動かない。


 それに何よりも、何なの、あの王太子。頭が悪すぎるにも程があるわ。食事を摂れない令嬢を心配するどころか、投獄するだなんて。あんな頭の狂った男がこの国の王太子だなんて、本当にこの国はお先真っ暗ね。


 さっさとこんな国を抜け出して、自由に生きたいわ…


 そう、自由に…


 ふとレアの顔が浮かんだ。


「レアの嘘つき。ずっと私の傍にいる、私を守ると言ったのに。肝心な時にいないじゃない」


 公爵令息のレアが、どうする事も出来ない事くらい私でもわかっている。それでも私は…


「お嬢様、朝食のお時間です。さすがに殿下を待たせる訳にはいきませんので、急いでご準備を」


「そうね、次に遅れたら、今度こそあのアホに何をされるか分からないわ。急ぎましょう」


「お嬢様、その様な暴言はお控えください。他の使用人の話では、投獄された令嬢たちはかなりの冷遇を受けているとの事です。体調がすぐれない今のお嬢様には、逃げ出すことも不可能。とにかく大人しくしていてください」


 冷遇されているか…昨日の子、大丈夫かしら?体が本当に弱そうだったけれど…


 とにかく今は、ここから逃げ出すことを考えないと。動かない体を必死に動かし、準備を整えると昨日と同じ場所へと向かう。


 あら?昨日よりも明らかに令嬢の人数が減っているわ。一体どうしたのかしら?


「随分と人数が減っているみたいですが、何かあったのですか?」


 近くにいた令嬢に話しを聞いた。


「あなた、何も知らないの?昨日あれだけ大騒ぎをしていたのに。何人かの令嬢が脱走を試みて、捕まったのよ。それでみんな、投獄されたの…ちょっと気に入らない事があると、すぐに投獄されるし…私はいつまでこんな恐ろしいところにいないといけないのかしら?」


 今にも泣きそうな顔の令嬢。なんと、逃げ出そうとした令嬢たちは皆捕まり、投獄されただなんて…


 そりゃ逃げ出したくなるわよね。それにしても、随分数が減っているから、かなりの数の令嬢が投獄されたのだろう。それでもまだ、10人近くは残っている。


 私も早く、この地獄から抜け出したい。私の体調が戻れば、こんな所、余裕で抜け出せるのに。それに…


 隣で今にも泣きそうな顔をした令嬢。この子、きっと私より年下ね。この子たちも助けられるのに!


 何だか無性に腹が立ってきた。そもそも、どうして私があんなアホの言いなりにならないといけないのよ!


 怒りがこみ上げてきたタイミングで、王太子が入って来た。


「君たち、おはよう。昨日は愚かな女たちが、僕ちゃんの目を盗んで脱走を試みたものがいた。あいつは、近々公開処刑の予定だ。君たちにもぜひ、あいつが無残に死ぬところを、みてやってほしい」


 この男は朝から何を言っているの?公開処刑ですって?ちょっと脱走しようとしただけで、命を奪うの?そんな事が許されるとでも思っているの?あり得ないわ!


 その時だった。


 隣に座っていた女性が、あまりのショックからか、イスから転げ落ちてしまったのだ。


「大丈夫ですか?」


 ビックリして彼女に近づき、抱き起す。小刻みに震える令嬢を、イスに座らせる。


 すると王太子がこちらにやって来たのだ。


「貴様、僕ちゃんが大事な話をしている時に、イスから落ちるだなんて。なんて女だ。こいつも投獄しろ!」


 相変わらずあり得ない事を言いだしたのだ。そんな事で投獄ですって!


 もう我慢できないわ!

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