第32話 何なの!この男は

 次に目を覚ました時は、ベッドの上だった。


「ここは一体どこなの?何だか頭がぼっとするし、力が入らない。あの男たち、私を勝手に連れていくだなんて、絶対に許さないわ。ただでは済まさないのだから!」


 体中から怒りがこみ上げてきたが、その瞬間、激しい頭痛に襲われる。私の体、一体どうしてしまったのかしら?


 そうだわ、変なリングを付けられた瞬間、体の力が抜けて意識を失ったのだった。


 左腕を見ると、見た事のないリングが付いている。このリングね。私に変な物を付けるだなんて!こんなもの、さっさと外してやるわ!そう思ったが、全然外れない。


「何なのよ、これは!マリアン、マリアンはいる?」


「お嬢様、お目覚めになられたのですね。よかったです。さあ、ドレスに着替えましょう」


「何が“お目覚めになられたのですね”よ。ここは一体どこなの?私を誘拐した悪党どもなどこにいるの?あいつら、ただでは済まさないのだから。覚悟していなさい!」


「お嬢様、お口を慎んでください!ここは王宮です。そしてあなた様を連れてこられたのは、王宮の騎士団の方たちです。お嬢様が出頭命令の時間になっても姿を現さなかった為、強制的に連行されたのです」


「何なの!出頭命令なんて聞いていないわよ。それに強制連行だなんて。王族だからって、そんな傍若無人な事をしていいと思っているの?一言文句を言ってやるわ。いや…ここは病弱なふりをして、さっさとお妃候補から外してもらおう。マリアン、行くわよ」


 そうよ、私は病弱なのよ。王太子妃ともなれば、立派な跡継ぎを生まないといけないのだ。健康な女性というのが、絶対条件のはず。


「お嬢様、お待ちください。まずはお着替えを。それから、どうか王族の方たちに無礼がないよう、お願いいたします」


 マリアンが必死に訴えかけてくる。


 ふん!無礼もくそも、そんな事知らないわ。ただ、よくわからないけれどこのリングのせいで、力が入らないのも事実。ここで無礼を働いて、死罪にでもなったら今の私では逃げられない。


 痛いのも死ぬのも絶対に嫌だわ。ここは穏便に済ませ、さっさと家に帰してもらおう。


 着替えを済ませたタイミングで、ちょうど来るように呼ばれた。さっさとか弱いふりをして、解放してもらわないと。


 それにここに集まっている令嬢たちはきっと、みんな王太子妃になりたくてギラギラしている人たちばかりだろうし。その人たちにさっさと面倒ごとを押し付けてしまわないと。それに王宮のお料理、そこまで美味しくないのよね。


 ただ、頭がクラクラするし、思う様に体に力が入らない。これは演技をしなくても、問題ないだろう。


 重い体を必死に動かし、男性についていく。ちょっと、歩くのが早い男ね、普通はレディに歩調を合わせるものでしょう。レアはいつも私の歩調に合わせてくれていたわよ!


「レイリス嬢、こちらで皆様がお待ちです。どうぞ中へ」


 男に案内され中に入ると、昨日見た男とその周りには複数の令嬢たちがいた。ぱっと見たところ、20人以上は令嬢が集められている。なぜか令嬢たちの顔色があまり良くないのは、気のせいかしら。


「お待たせして申し訳ございません。レイリス・モーレンスと申します。体調がすぐれず、今まで意識を失っておりましたゆえ、どうかお許しください」


 今にも倒れそうになる体を必死に支え、頭を下げた。どうだ、私の渾身の演技…と言いたいところだが、本当に体調が悪いのだ。


 するとゆっくりと立ち上がった男が、こちらに近づいてきた。


 そして


「君が噂のレイロス嬢か。アドレアがお熱を上げているらしいから、どんな美しい娘かと思ったら、大したことないな。ぼくちゃんがこの国の王太子のジョブレスだ!僕ちゃんはとても偉いんだぞ。こんな僕ちゃんのお妃候補に選ばれたんだ。どうだ、嬉しいだろう」


「…」


 今なんて言った?ぼくちゃん?嬉しい?そもそもレイロスとは誰の事を言っているの?


「ぼくちゃんのあまりの美しさに、ノックアウトされちゃったのかな?モテる男はつらいなぁ」


 よくわからないが、私の前でくねくねし始めたこの男。なんて気持ちの悪い男なの!!!


 こんなアホがこの国の王太子ですって?嘘でしょう?こんな愚か者がこの国の国王になったら、秒殺で国が亡びるわ!アホと運命を共にするだなんて、拷問以外何物でもないじゃない。


 そもそもどうしてこんな愚か者が、王太子なんてやっているのよ?

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