第21話 初めての敗北

 バカにしないでほしい、こんな風にわざと負けられても、悔しいだけだわ。


「ごめんね、君をどうしても傷つけたくはなかったのだよ。君の可愛い手に竹刀を当てるだなんて、絶対にしたくなくて…僕の実力不足だ。だからどうか、そんなに怒らないでほしい」


 オロオロするレア。


「それじゃあ、今度は本気を出して。私、強い男が好きなの。本当に私と結婚したいと思うのなら、絶対に手加減しないで全力で戦って私に勝ってみなさいよ!」


「分かったよ、確かに君を傷つけたくなくて負けを選んだ僕は、間違いだったね。レイリス、失礼な事をしてごめん。君が僕の恋敵だと思って、死ぬ気で行くよ」


「そうしてちょうだい。次手加減したら、もう二度と会ってあげないからね」


「分かったよ」


 気を取り直して、再び勝負開始だ。先ほどの同じく、激しい打ち合いが始まった。やはりレアは相当鍛えてきているのだろう。今回も私の攻撃を全て受け止めている。それどころか、押されている。


 なぜだろう、今までどんなに戦っても疲れなんて感じなかったのに、なんだか今回は疲れてきている。まずいわ、集中しないと、このままでは本当に負けてしまう。


 その時だった、レアの竹刀が私の竹刀を振り払ったのだ。ギリギリのところを狙われた事もあり、私の手にレアの竹刀が当たる事はなかった。


 私…負けたの?この私が、負けたですって?


 ショックでその場に座り込んだ。


「レイリス、大丈夫かい?すまない、怪我はないかい?」


「ええ、大丈夫よ。レア、あなた本当に強くなったのね。まさか私が敗北する日が来るだなんて…」


 くやしいぃぃぃぃぃ!!!!どうして私が、レアなんかに!!!!!


 こんな屈辱、生まれて初めてだわ!どうして私が!!


 悔しさから感情が溢れ出す!その瞬間、再び体中に痛みが走った。


「レイリス、顔色が悪いが大丈夫かい?すまない、僕が君の魔力を封じたからかもしれない。とにかく一度、部屋に戻ろう」


 ん?魔力?この男は一体何を言っているのだろう。


 レアが私を抱きかかえた瞬間、再び痛みがスッと引いていく。ただ、なぜか疲労感が半端ない。私の体、一体どうしたのかしら?


「レア、あなた一体どんな訓練をしたの?まさか私があなたに負けるだなんて…」


 悔しくてたまらないのよ!私は!


「僕はこれでも男だからね。それに寝る間も惜しんで訓練を積んだんだ。レイリス、君は女性だ。男女では筋肉量も体のつくりも全然違う。そんな中、この国で一番強い僕と互角に戦ったのだから、やっぱりレイリスはすごいよ」


「この国で一番強いですって?レアが?」


「そうだよ、この国では一番強い騎士を決める大会が、年に一度行われるのだよ。去年からその大会に出ているのだが、去年と今年、2年連続で僕が優勝している。それも、圧倒的な強さでね」


 そんな大会があっただなんて…確かに今のレアなら、優勝してもおかしくはないだろう。それでもやはり、悔しい!


 ん?ちょっと待って、一体どこに向かっているの?


「ちょっとレア、ここは…」


「さあ、出発しようか」


 なぜか馬車に乗せられたのだ。


「ちょっと、どこに行くのよ。私はどこにも出かけるつもりなんてないのよ」


 勝手に私を連れ出そうだなんて、百年早いのよ!プリプリ怒る私を、なぜか嬉しそうに見つめるレア。昔から少し変わっていると思っていたが、やっぱり変わっているわ。私が怒っているのを見て、ニコニコしているだなんて。


 それにしても、一体どこに向かっているのかしら?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る