『全肯定ガールズ! 〜アンタの味方は私だけ〜』

Algo Lighter アルゴライター

第1話 「100点満点の30点」

 放課後の教室。

 窓の外にはオレンジ色の夕日が広がり、長く伸びた影が教室の床に落ちている。どこからか吹いてくる春の風がカーテンを揺らし、授業の終わった開放感が教室全体を包んでいた。


 私は、ぼんやりと自分の手元にある答案用紙を見つめる。

 大きく赤ペンで書かれた「30」の数字。

 ……想像以上に低い。

 ため息をつきながら、そっと答案を机に伏せた。


「サクラ、どしたの?」


 肩をぽん、と軽く叩かれる。

 振り返ると、そこには満面の笑みを浮かべたミカがいた。


「……30点だった」


 私はうつむきながら、そっと答案用紙を見せた。

 すると、ミカは目を輝かせて、それをじっと見つめる。


「えっ、すごいじゃん!!」

「どこが!?」


 私が即座にツッコむと、ミカは得意げに指を立てた。


「いやいや、考えてみてよ!30点ってことは、70点分の伸びしろがあるってことでしょ?可能性しかない!」

「……そんな前向きな考え方ある?」

「あるある!むしろ、70点取るよりすごいよ!」

「いや、それは絶対ない」


 私は呆れながら答案を握りしめる。


 しかし、ミカは真剣な表情で私を見つめ、さらに続けた。


「だってさ、70点取っちゃったら、残り30点しか成長できないけど、サクラは70点も伸びる余地があるんだよ!?未来の天才の卵じゃん!」

「……」


 なんかすごく理屈っぽく聞こえるけど、もしかして私はすごいのかもしれない……?

 そんな気がしてくる自分が怖い。


「……そう聞くと、なんだかすごい気がしてくる……」

「でしょ?」


 ミカが得意げに笑った、そのとき。


「え、サクラ30点だったの?」


 不意に話しかけてきたのは、隣の席のカズキだった。

 彼は自分の答案を机の上に置きながら、肩をすくめる。


「まぁ、30点でも別にいいよね?」


 その瞬間、ピシャリと音を立てるように、ミカの表情が変わった。


「いや、お前は勉強しろよ」


 低い声でバッサリと切り捨てる。


「えっ!?なんで!?さっきサクラの30点は『未来の100点』とか言ってたじゃん!!」

「違うの、サクラの30点は、努力の結果なの!だからこれは『未来の100点』のための30点!」


 私はそんな努力してないけどな……と思いつつ、なんだか気分が良くなってきた。


「じゃあ、俺の30点は?」

「ただの30点」

「えっ!?俺のも未来の100点じゃないの?」

「ないねー!」


 ミカの容赦ない言葉に、カズキが膝をつく。


「理不尽だ……」

「でもね、カズキにも希望はあるよ!」

「ほ、本当か?」

「今からめちゃくちゃ勉強すれば、もしかしたら50点くらいにはなるかも!」

「めちゃくちゃ努力しても50!?」


 愕然とするカズキ。


「まあまあ、気を取り直して、帰りにパフェ食べに行こう!30点を取ったご褒美に!」

「ご褒美の概念が崩壊してる……」


 そんなこんなで、私は30点を抱えつつも、なんだか悪くない気分で教室を後にした。


 夕日に染まる校舎の廊下を歩きながら、ミカの隣でふと笑ってしまう。

 30点でも、悪くないかもしれない。


「サクラ、次は40点目指そ!」

「え、次も30点超え前提なんだ?」


 ミカの底抜けのポジティブさに、私はまた笑ってしまった。


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