第42話

「大丈夫なようにしなけりゃならない」


 そう言って、かなでは真顔になった。


「俺たちはもうあの時と同じ子供じゃない。今度はアイツに勝てる。もしここに巣食っているのがアイツなら、の話だが」


 皆月みなづきだってそう信じたいが、はなはだ不安だ。

「だったら、ほら、あの、お前の知り合いの霊能力者みたいな人から今朝届いたおふだやらを貼ったりしないのかよせめて」

 皆月がそう主張すると、奏は曖昧な顔つきになった。


「それはな、最後の手段だ」


「何でだよ」


「だから、ただ護符で一時的に封じるだけじゃ最終的な解決にならないだろ」


「でも、桜子ちゃんがなんて言ったか聞いてたか? 『まだ足りないや』と言ったぞ」


「ああ……『七人桜しちにんざくら』だからな。今年はこれで四人死んでる。二〇一八年、桜子ちゃんが生まれここの音楽ホールが完成した年にも七人だ。七人死ぬといったんおさまり、周期的にまた同じことが起きるの可能性が高いな。『七人岬』という有名な怪異伝承のパターンと同じだ」



 奏は何か考えにふけっている様子だったが、やがて眉を寄せて言った。


「周期がある。俺はやっぱりアイツだと思う。俺の家族が殺されたのが二〇一〇年。次が二〇一八年。今は二〇二六年。八年周期だ」


「待てよ、お前の家族が……その、」

 むしろ奏のほうが平気で口にするのに皆月はためらい、わずかに間を置いた。

「殺されたのは確かに二〇一〇年だけど。七人亡くなっていないだろ。お前のお父さんお母さんと祖父母、それにコウちゃんを入れるとしてもだ」


 奏は虚をつかれたように片方だけのヘイゼルアイをみひらき、黙った。

 その眼はいまは、くらい灰色に見えた。



「…………かなで



 耳鳴りがする。


 ――もういいかーい。


 ――まぁだだよ。


 奏の母親が奏でる、優しいピアノの音色。


 モーツァルトのピアノソナタ11番。


 平和な午後。



 蝉の声。








 男。



 皆月は、



 あの時、男は、血まみれの萌音もねの腕を、






 突然、奏が強く皆月の両肩を掴んだ。


「思い出すな」


「え……」


「お前、あの時のことを思い出すと眩暈がしたり具合悪くなったりするだろう、今は考えないようにしろ」


「あ、ああ……」



 皆月は、



 何か非常に重要なことを忘れている感覚を再び覚えたが。



 何も思い出せなかった。


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