第2章
第9話
「という訳で、これから行く
サービスエリアのフードコート。四人掛けのテーブルで、
皆月は、結局、奏の求めるまま仕事を休んで彼の東北行きに付き合ってしまっていた。正気の沙汰ではない。社会人だというのに。
しかも、高校教師が友人と旅行に行きますのでと当日に言って休める訳がない。
秋田在住の伯父が
伯父なんていない。
「特に今年の三月がひどかった。宿泊客が三日連続で死亡」
「そんな偶然ってあるか?」
と、皆月は割り箸で焼きそばをつつきながら言った。紅しょうがが嫌いなのにうっかり抜いてもらうのを忘れたので箸でつまんで脇によけると、奏がひょいと手を出して食べた。
自分で勝手に食べておいて、
「ビールに全然合わんな」
と、文句を言ってから、
「絶対にないとは言い切れないが、二日連続ならともかく三日連続だからな。地元ではかなり噂になったようだ。最初の一人は二十代の女性グループの一人で、朝になると布団の中で冷たくなっていた。若くて持病もなかったが、これは病死ということになっている。が、その翌日には、その女性とはなんの関係もない五十代の男性客が客室で首を吊った。これは当然、騒ぎになった。不気味に思ってその日の宿泊を取りやめた客もいたようだが、そのまま連泊したり、事情を知らずに当日チェックインした客もいる」
「ふぅん……」
「で、そのまた翌日には、二人連れの三十代男女の客の女のほうが男を刃物で刺し殺してしまった。これは当時は全国ニュースでも報道されてるな。二人は不倫関係で、別れを切り出された女が逆上して刺したということになっている。ところが、女は取り調べに対し、別れ話などしていない、自分が男を刺したことは覚えているがなぜそんなことをしたのかわからない、何かに操られるようだった、と供述している」
そこまで言って、奏は片方だけのヘイゼルアイでじっと皆月を凝視した。
「しかも、凶器について、自分はそんなものを持ってきていない、包丁はその場に急に現れたと言っているそうだ。包丁は見た感じは新品のようであるにも関わらず、実際、秋田県警は女がどこかホームセンターやらスーパーで包丁を買ったという証拠を見つけられずにいる」
皆月はテーブルの下で膝に置いた手を、知らず強く握り締めた。
皆月たちが子供の頃のあの事件。
皆月は自分の呼吸が少し速くなるのを感じた。まだこれから何時間も運転がある。眩暈を起こすのはまずい。
「大丈夫か?」
と、
「ああ」
と、短く答える。
奏は続けた。
「週刊誌の記事やネットの噂のようなものていどだが、資料を印刷しておいたから着いたら目を通してくれ」
「うん」
「
奏はぐびぐびとグラスの中の琥珀色の液体を喉に流し込んでから、
「ま、本当の目的は桜灯館で何が起きているのかの調査だがな」
いつものように黒い眼帯をしたキメ顔で締めくくった。
皆月はといえば、はるばる東北地方まで皆月が運転しているにも関わらず奏が昼からビールを飲み出したのが気になり始めた。
「ところで何でお前だけアルコール入れてるんだよ?」
「!」
奏があたかも驚いたかのような顔をした。
「俺は運転はできない。俺が飲んでいようといまいとお前が運転することは変わらない」
「そうだけどさ。遠慮とか感謝とかいうものはないのか?」
「!」
「いちいち驚いた顔すんな。からかってるだろ」
「はは。涼太をからかうと面白いからな。遠慮はないが感謝はしてるぞ?」
奏は破顔して言う。
「はー、そうかい」
片目の視力がなくても運転免許がとれる場合もあるらしいのだが、奏の場合は視野が足りないとのことで、彼は運転免許証を取得することができないのだ。
秋田なら新幹線で行ったっていいだろうと皆月は思っていた。しかし、奏はいざという時に足がないのは無防備だから車で行くと言い張った。
大柄で体格がすこぶるよい奏を助手席に乗せ、後部座席に奏のチェロと荷物を積むと車内のスペースはだいぶ圧迫感のある感じになる。
皆月も、行くからにはGoogleマップで場所を調べてみたが、桜灯館はずいぶん
長距離の運転は久しぶりだしかなり疲れた。
かなり早い時間に出発したつもりだが、桜灯館に到着したのは夕方五時頃になった。
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