パート3: 反撃地点の選定と決意
(はぁ…はぁ…! もう、限界に近い…!)
全力疾走を続けてきたせいで、視界が霞み、足がもつれそうになる。
背後の足音は、もうすぐそこまで迫っている。
このままじゃ、本当に捕まる…!
(どこか…どこかないのか!?)
必死に周囲を見渡す。
その時、進行方向の少し左手に、わずかに地面が窪んだような場所があるのに気づいた。
(あれは…?)
近寄ってみると、直径10メートルほどの、浅いすり鉢状の窪地だった。
周囲は太い木々で囲まれていて、外からは中の様子が見えにくい。
そして、窪地の縁に身を隠せば、複数の敵に同時に回り込まれるリスクも減らせそうだ。
(ここだ…!)
直感が告げていた。
逃げ続けるよりも、ここで迎え撃った方が、まだ勝機があるかもしれない、と。
(もう、逃げるのは終わりだ…!)
俺は覚悟を決めた。
窪地の中へと滑り込み、一番大きな木の根元に背中を預けるようにして身を隠す。
(ふぅーっ…!)
荒い息を必死に整える。
心臓はまだバクバクと激しく脈打っているが、恐怖だけじゃない。
これから始まる戦いへの、武者震いのようなものも感じていた。
俺は腰の『疾風のサーベル』を静かに抜き放った。
月見草を採取した時とは違う、鋭い光が刀身に宿っているように見える。
(頼むぞ、相棒…!)
左腕には『強化カイトシールド』。
これも、ただの飾りじゃない。オークの攻撃すら受け止めた(耐えきれはしなかったけど)盾だ。
(SPは4残ってる。いざとなったら、回復か、ステータス強化か…)
状況を見て判断しよう。
今はとにかく、敵を待ち構える。
俺は盾を構え、サーベルの切っ先を、追跡者が現れるであろう方向に向けた。
窪地の入り口は一つじゃないが、おそらく俺が逃げてきた方向から来るはずだ。
森の中は、不気味なほど静かだった。
さっきまでの自分の足音と息遣いが消えたことで、風の音や葉擦れの音だけが聞こえる。
だが、その静寂の中に、確実に近づいてくる複数の気配を感じる。
(来る…!)
俺は息を殺し、神経を研ぎ澄ませる。
目は窪地の縁を睨みつけ、耳は微かな物音も聞き逃さないように集中する。
汗が顎を伝うのが分かった。
逃げるのをやめた俺を、追跡者たちはどう思うだろうか?
罠だと警戒するか? それとも、体力が尽きたと油断して突っ込んでくるか?
分からない。
でも、どちらにしても、戦いは避けられない。
(やってやる…! 俺はもう、ただ逃げるだけの底辺じゃないんだ!)
Dランク探索者、ユウキ。
俺はここで、俺を追ってきた何者かを知り、そして、そいつらを打ち破る!
固い決意を胸に、俺は静かに、その時を待った。
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