第五章:28宿の結集と“闇の星宿”の影

 玄武の雪原が朝日に染まった頃、蒼藍の掌に光る星盤は、深紅の脈動を放ち始めていた。かすかな揺れ、胸奥に差し込む冷たい違和感。

 それは、星々の調和が乱れ始めている合図だった。

 「……誰かが、星を黒く染めている」

 蒼藍の言葉に、房が眉を寄せた。

 「まるで、空から落ちるような……いや、堕ちるような力だわ」

 集った28の星宿たちは、北方の星図殿に集い、ついに対面する。

 東の青龍、南の朱雀、西の白虎、北の玄武——それぞれの星が、真の主のもとで並び立つ。

 「これが……28の力……」

 千佳は、一人一人の存在が互いに響き合い、拮抗しながらも絶妙に支え合っているのを肌で感じていた。

 そのとき、星図殿に現れたのは、軫だった。

 「観測によって判明した。星宿とは別系統の“闇の星”が、中央にある“廃都ルグナ”で胎動している」

 「廃都ルグナ……大陸の心臓部。千年前、封印戦争があった場所よ」と心が震える声で言った。

 斗が拳を握りしめた。

 「星宿を狩ってた連中……あの黒風会の背後にいたのが、そこか」

 星が静かに口を開いた。

 「“闇の星宿”……かつて星宿でありながら、絶望と怒りに堕ち、異なる力の回路を得た者たち。彼らは“滅び”を望んでいる」

 28宿の民たちは、それぞれの胸中に葛藤を抱えていた。

 だが、蒼藍が立ち上がり、星盤を天に掲げる。

 「俺は器だ。そして、みんなの力があってこそ、この器は意味を持つ」

 千佳も横に立ち、声を上げる。

 「心を一つにできるのは、あなただけじゃない。私たち全員よ!」

 氷原に築かれた星の神殿にて、“星宿の覚醒儀式”が始まる。

 各宿が自身の宿星の位置に立ち、星座陣を描く。千佳が中心に立ち、全員の心を束ねる。蒼藍が神殿の核に手を当てた瞬間——

 28の星が天に煌き、地を震わせる咆哮とともに“真なる力”が解放された。

 青龍の如き怒涛の波動、白虎の刃の閃き、朱雀の炎の祝福、玄武の大地を貫く意思——それらすべてが、蒼藍の星盤を通じて一点に集約される。

 だが——その瞬間、闇もまた動いた。

 空が裂けるように黒く染まり、赤黒い星が天の頂に現れる。

 「……奴らも、目覚めたか」

 神殿の外で、空間が歪み、暗黒の軍勢が姿を現す。闇に堕ちた獣たち、かつて星宿だった者の残響、そして黒装束に身を包んだ人影。

 その中央に立つ者——蒼い髪、かつて人であった形を保ちながらも、目には虚無の深淵があった。

 「お前が……闇の器か」

 蒼藍がそう言うと、男は嗤う。

 「かつての“器”だ。星を集めようとしたが、失敗した。そして……すべてを憎んだ。だから、すべてを終わらせに来た」

 かつて、星宿たちを導こうとした男が、希望を裏切られ、闇へと堕ちた存在。彼こそが、闇の星宿の首領だった。

 「お前が28人集めても、遅すぎる。星はすでに、終末の陣形を描いている」

 蒼藍は剣を抜く。千佳が祈りを込める。

 「それでも私たちは……あなたを止める!」

 いま、28の星が再び光を放ち、闇との総力戦が幕を開ける。

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