第四章:北方「玄武」圏の厳冬3
3. 危宿・室宿・壁宿 ― 壁の国の危機
北方・玄武圏の旅も終盤に差し掛かっていた。蒼藍たちは最後の地、「壁の国(へきのくに)」へ向かっていた。
この国は北方最大の城塞国家であり、外敵を一切寄せつけぬ結界と巨大な壁によって築かれた鉄の王国である。だが今、そこにはかつてないほどの混乱が広がっていた。
「結界が機能していない……」と星が低く呟く。
都市の外周に広がる氷壁の一部が崩落しており、そこから魔物の群れが侵入していた。かつて最強と恐れられた“壁の守護”は、今や沈黙していた。
「誰かが……意図的に結界を破壊してるわ」
氐が崩れた壁面を確認し、歯を食いしばる。
市街に入った蒼藍たちは、破壊された家屋と逃げ惑う市民、そして地下牢に拘束されている者たちの存在を知る。
牢にいたのは、極寒に震える二人の人物だった。
一人は、蒼白な肌と深い青の髪を持つ青年。両手を鎖で封じられ、冷気を纏ってなお身動きできないまま閉じ込められていた。
「……近づくな。俺の感情が高ぶると、すべてが凍りつく」
その男の名は——危(き)。玄武・危宿の者。
「力を恐れられ、閉じ込められたんだな」と、心が低く言った。
「違う。……俺が凍らせたんだ。怒りで、全てを」
危の周囲はうっすらと霜が張り、壁までもが凍り始めていた。
その傍らのもう一人、薄い眼鏡をかけた軍服姿の男は、完全に鎖に縛られながらも鋭いまなざしを保っていた。
「貴様ら……“外の者”か? 何しにここへ来た」
「星宿を集めている。あなたもその一人だ」と蒼藍が答える。
男は微かに眉をひそめた。
「俺の名は室(しつ)。壁の国の軍師だったが、王命に背いたことで反逆者とされた」
「なぜ、王命に?」
「……国王が、星宿の力を利用しようとしていた。“封印された力”を用いて、永遠に壁の中の秩序を保とうと」
「それが、結界の暴走を引き起こしたんですね」
「……そうだ」
王の暴走を止めようとした室と危は、ともに幽閉されていたのだ。
蒼藍が鍵を壊し、危に手を差し伸べる。
「力を正しく使う道は、必ずある。お前も、世界の調和のために必要だ」
危は一瞬目を伏せ——そして頷く。
「……なら、もう二度と凍らせない。俺の意思で、力を制御してみせる」
室もまた、鎖を外されながら言う。
「俺の知識と策略が必要なら、使うがいい。ただし、ここを出るなら、最後まで責任を負ってもらうぞ」
千佳がにっこりと笑った。
「もちろん。そのために、ここまで来たんだから」
危宿・室宿が合流し、一行は城の最奥へ向かう。
そこにあるのが、“壁の核”と呼ばれる巨大な防御結界の中心部。
そして——その前に、ひとりの壮年の男が立っていた。頑強な鎧、岩のような体格、そして足元に砕けた結界の残骸。
「ようやく来たか。俺は……壁(へき)。この国を守るために、すべての力を封印していた」
玄武・壁宿の主。だが今、彼の力は長きに渡る封印の代償で鈍り、結界は崩壊寸前だった。
「俺一人ではもう、この国を守れん……蒼藍よ、星宿すべてが集うとき、その光が道を照らす。そうだろう?」
「はい。だから、来ました。あなたの力も、共に」
壁は大地に膝をつき、深くうなずいた。
「では、この壁を再び立てるために……俺の力、すべて預けよう」
その瞬間、大地が震え、失われかけていた防壁が再構築されていく。結界が蘇り、街に再び光が差す。
こうして、危宿の冷気使い・危、室宿の軍師・室、壁宿の守護者・壁が仲間に加わった。
北方・玄武の七宿、すべて集結——
そして、ついに蒼藍の星盤が激しく脈打つ。
「全28宿……すべて揃った」
だがそのとき、大地が一瞬揺れた。
星の光が、一つ、黒く染まっていく。
「……闇の星宿が、動き出した」
第四章:北方「玄武」圏の厳冬 終
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