第四章:北方「玄武」圏の厳冬1

1. 厳しい雪国と閉ざされた城壁

 雪の吹きすさぶ空の下、蒼藍たちは朱雀の都を離れ、北へ、北へと進んでいた。目的地は、氷と岩の国々が点在する玄武圏。

 この地は極寒の嵐が吹き荒れ、国々は高い壁と結界で外界と遮断されている。星宿の気配も弱く、読み取るのが困難だった。

 「星の光が……雪と雲に遮られている」と蒼藍が口を結ぶ。

 だが、彼の手には淡く反応する星盤があった。

 「それでも確かに感じる。二人……山にいる」

 向かったのは、峠を越えた先にある銀脈山(ぎんみゃくざん)。

 そこで出会ったのは、吹雪の中で人を探すように駆け回る大柄な男だった。

 「おい、お前ら生きてるかー!!!」

 大声で呼びかけるその男の背には、何人もの衰弱した旅人が括りつけられていた。雪崩で遭難した一団を、ひとりで助け出したのだ。

 男は笑顔で彼らを温泉の湧く岩陰へと運び込み、手際よく薬草を煎じていた。

 「すげぇ体力……それに、この優しさ」と心が驚く。

 彼の名は——斗(と)。玄武・斗宿の者だった。

 「昔っからこうなんだ。困ってる奴がいたら、どうしても放っとけねぇ。なんか知らんが、人より力はあるらしいしよ」

 その傍らで、冷静に怪我人の包帯を巻き、雪の上で薬草を選り分ける、がっしりとした体躯の男がもうひとりいた。

 「お前たち、旅の者か? あまり深入りするな。この先は、結界に守られた国“雪籠(ゆきごもり)”の領域だ」

 そう語った彼の名は、牛(ぎゅう)。玄武・牛宿の民であり、斗とは雪山の救助隊のような活動をしていた。

 「星宿? 知らねぇけど、俺らはただ、目の前の命を助けてるだけだ」

 蒼藍が手のひらを見せる。星が薄く反応する。

 「君たちも、やはり星に選ばれている。助け合う力こそ、玄武の本質だ」

 千佳が微笑みながら問いかける。

 「もし、もっとたくさんの命を救える方法があるとしたら、協力してくれますか?」

 斗は即座に腕を組み、笑いながら答えた。

 「もちろんだ! 助けを求める奴がいるなら、どこまでも駆けつけるさ!」

 牛も静かに頷く。

 「……この大地を守るためなら、俺の力も貸そう」

 こうして、斗宿の巨人・斗と、牛宿の守者・牛が仲間に加わった。

 だが、さらに北へ進もうとしたとき、突然空から黒い札が舞い降りた。

 「これは……拘束の符!」と星が叫ぶ。

 空間そのものがゆがみ、氷の結界に阻まれて先へ進めなくなる。

 「誰かが……私たちの行動を封じようとしている」

 そのとき、氷結の結界の奥から、歌声が響いてきた。

 優しく、切なく、それでいてどこか閉ざされた旋律。

 「この声……誰か、泣いてる?」と千佳が言った。

 蒼藍は強く星盤を握りしめる。

 「まだ……この奥に、星宿がいる」

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