喚子鳥が鳴いたら、振り返ってはいけない
- ★★★ Excellent!!!
あの山には、いくつか『触れてはいけない場所』があった。
けれど、ガキだった俺たちは、それがどこかも知らずに笑い合っていた。
寺の息子として山奥に生まれ、雪と蛙と秘密基地にまみれて育った幼少期。
春のある日、ふざけた弟と転んだ自転車。その日が、すべての始まりだった。
助けを求めて現れた女。
導かれるように入った廃屋。
そこは、かつて俺たちが「遊び場」にしていたはずの、誰も住んでいない場所。
──の、はずだった。
開け放たれた襖の隙間から覗いた部屋には、布団が敷かれ、茶箱が置かれ、
そしてそこに「何か」が、寝ていた。
俺はまだ幼くて、何を見たのかも、何が起きたのかも分からなかった。
ただ、恐怖だけが骨の奥まで染み込んで、今でも消えていない。
そして、十数年後。
兄から語られる「山下家」の過去。
事故死した少年と、盗まれた子供のマネキン。
月夜に屋根の上で蠢いた『それ』の姿。
これは、山の底に沈んだ祈りと呪いの物語。
誰もが一度は持っていた『秘密基地』という記憶が、
ひとつずつ剥がれていく、静かで、容赦のない怪異譚。