後日談:メタルガールズ砂糖入り
①【ブレスレット】
今日は優ちゃんと遊ぶ約束をしていた日曜日!
私は今、待ち合わせ場所である駅へ向かっている。 私は今日の服装について悩んでいた。
「うーん……」
昨日も悩んだけど、やっぱり悩むなぁ~。
「でもまあ、これでいっか!」
私は普段着ている服にした。
一番のポイントは、左手首に巻いたブレスレットがよく見えるように七分袖のロンTにしてきたことかな。そこからコーデしていって、今日着ていく格好へと仕上がる。
自己満足と相手への思い遣りで私のお洒落は出来ている。そう信じたい。
「よしっ」
気合いを入れ直したところで、待ち合わせ場所に到着した。
「あっ……あれ? いない……。まだ来てないのかな?」
私はキョロキョロしながら優ちゃんの姿を探す。すると……いた!
「優ちゃ〜ん!」
優ちゃんを発見したので声をかける。
「えっ!? もう来たんですか? 早いですね」
優ちゃんが丁度向こうからやって来るところだった。
「ふふ♪ 優ちゃんを待たせないように早めに来ました」
「ありがとうございます。では早速行きましょうか」
「はい。よろしくお願いします」
私たちは一緒に歩き出した。
目的地までの道中、私は優ちゃんの横顔を見ながら考えていた。
この前、やぶきさんとは仲良くなりたいって言ってたよね。
あの時は優ちゃんの気持ちを聞いて嬉しかった。
優ちゃんは人付き合いが苦手で、今まで友達と呼べる存在がいなかったらしい。学校では話が合う友達は何人かいるようだけれど…
それはあくまでクラスメイトとしてであり、親友と言えるほどの関係ではないと言っていた。
そんな優ちゃんが私とは仲良しになりたいと言ってくれたのだ。これはとても嬉しいことだ。私だって優ちゃんのことをもっと知りたいと思えたし、何より優ちゃんとお近づきになれるのはとても楽しみだ。
「あ! 今日も着けてくれてるんですね、そのブレスレット」
「うん。毎日付けてるよ。優ちゃんから頂いた大事な物だからね」
「そうですか。嬉しいです。実は私も学校以外で出掛ける時は着けてます」
「本当? 何だかペアルックみたいで嬉しいなあ」
と言った瞬間、私はしまったと後悔した。優ちゃんはあの時、ペアルックが恥ずかしいから敢えて違うデザインの物をプレゼントしてくれたのに、私ったら、自分から墓穴を掘ってどうするの!
恐る恐る優ちゃんの顔を見ると、案の定、優ちゃんの顔は茹でダコみたいになっていた。
私はなんとかフォローしようと試みる。
「あ! でもここのデザイン少し違うからペアではないかな!? あは、あはは!」
優ちゃんは今度はあからさまに肩を落とした。
私っ! 追い打ちかけてどーするのっ!?
そうこうしてる内に、今日の目的の場所、木造の可愛らしくもアンティークなデザインのブックカフェに到着した。
ここは彼女が通う高校の近くにある。
優ちゃんが言うには、この店は最近オープンしたばかりだという。そして今日、優ちゃんはこの店でお茶を飲むのを目的に誘ってくれたのだ。
店の中に入ると、カウンターの奥にいる店主らしき女性が私たちに声を掛けてきた。
「あら、いらっしゃいませ。初めての方かしら?」
「は、はい」
私は少し緊張気味に答える。
「ごゆっくりして行って下さいね」
女性はニッコリと微笑みながら言った。
店内を見回すと、落ち着いた雰囲気の内装になっている。
窓際の席に向かい合って座ると、早速メニュー表を開いた。
「わぁ~どれも美味しそうだねぇ」
「そうなんですよ。私も前回チーズケーキを頂きましたが、甘すぎず美味しかったですよ」
優ちゃんは目を輝かせて本日のケーキを選別している。
「じゃあ私はケーキセットにするけど優ちゃんは?」
「同じく」
「わかった。すみませーん」
私は女性店員を呼ぶと注文を伝えた。
「はい。わかりました。少々お待ちください」
しばらく待つと、女性店員さんが頼んだものを運んできた。
「お待たせしました。まずこちらがガトーショコラとカフェラテで…」
「あたしです!」
優ちゃんが少し食い気味に返事をする。
「ではこちらがミルクレープとブレンドになります」
私の前にミルクレープとコーヒーが置かれる。
「ありがとうございます」
私がお礼を言う。
「いえ、ごゆっくりとお過ごし下さい」
そう言い残すと、柔らかい笑顔を残し、彼女は別のテーブルの接客へと向かった。
「さあ食べようか♪ いただきま~す♪」
私はフォークで一口サイズに切り分けると、ミルクレープを口に運んだ。
何層にも重なった生地の優しい弾力と甘味、生クリームの濃厚さが合わさってとてもおいしい。
「ん〜♪ 幸せ〜」
思わず顔がほころぶ。
その様子を見た優ちゃんが私を見て
「本当においしそうに食べるんですね」
「えへへ、だってホントにおいしいもん」
「確かに」
「優ちゃんも早く食べた方がいいよ。冷めちゃうから」
「ええ。そうですね」
そう言って優ちゃんもガトーショコラを口に運ぶ。
「そういえば優ちゃん、今日はブレンドじゃなくてカフェラテなんだね?」
私はふと思ったことを口にした。
「はい。今日はガトーショコラを頼んだので、まろやかな飲み物の方が合うかもと思いまして」
「して、そのお味は?」
「ドンピシャです!」
優ちゃんは勢いよく拳を握り締めてみせる。
そのドヤ顔が堪らなく可愛かった。
一通りケーキを楽しんだ後、私たちは折角ブックカフェに来たのだからと、読書に耽ることにした。
優ちゃんは推理小説が好きな様で、自分が持ってきていた文庫本の続きを読み始めている。
私は、何か短時間で読めそうなものはないかと探し、手に取ってきたのは見知らぬ作者の詩集だった。
お互い同じ空間にいて、違う時間が流れているような錯覚を私は覚えた。すると、優ちゃんが本をパタンと閉じる音が聞こえたので私は視線を上げた。
「やぶきさんは詩を読むんですね」
「うん。偶にね。優ちゃんはいつも小説を読んでいるのかな?」
「そうですね。推理小説が多いですけど」
そう、優ちゃんは推理小説が好きと言うだけあって、中々深い考え方をすることを最近になって解って来た。
そこで、私はこの前から少し気になっていたことを優ちゃんに聴いてみたくなった。
「優ちゃん、左手を出して」
「はい? こうですか?」
お互いに左手を前に突きだす。
その手首にはあのブレスレットがお互い巻かれていた。
「私はト音記号で優ちゃんはヘ音記号のデザインのブレスレット…これが意味するものは?」
私は優ちゃんに質問を投げかけた。それも直球で。
「やぶきさんの言うように、これはペアのものではありません。たまたま見掛けて違うデザインの物を手に取ったまでです」
そう来ましたか…飽くまでペアではないと言い切るつもりなのね優ちゃん…
私は敢えて優ちゃんの話を遮った。
「でも優ちゃん、私の勘違いでなければ、優ちゃんが普段読んでる推理小説のトリックとか、事件解決のヒントになるようなものがこのアクセサリーには隠されているんじゃないの?」
そう、優ちゃんが今読んでいるのは推理小説なのだ。優ちゃんは一瞬動揺の色を見せたが、すぐに平静を取り戻し
「そんなのはただのこじつけです。それに、あたしがこの前読んだ小説には、全く関係のない話が書いてありました。このブレスレットはそういう類いのもので、この物語に隠された謎を解く鍵にはなり得ません」
と、言い切った。
「そっかぁ。残念だなぁ。せっかく面白くなりそうだったのに……」
「まぁ、仮にそうであっても、やぶきさんが謎解きをしたければ、私がそれを解き明かす手助けをしますよ」
優ちゃんは屈託のない笑顔で言う。
「じゃあ、手助けをしてもらおうかな…?」
私が悪い笑みを浮かべると、優ちゃんは少し血の気が引いたような顔を浮かべた。
「私はね、優ちゃん。音楽にはそれ程詳しくないんだけど、ト音記号とヘ音記号の意味くらいは知ってます。ト音記号は高い音を表し、ヘ音記号は低い音を表します。ト音記号は私が、ヘ音記号は優ちゃんがそれぞれ持っているね?」
私は物知り顔で優ちゃんに問う。
「そ、それがどうしたって言うんですか?」
優ちゃんは追い詰められた鼠のように小さく虚勢を張る。
「私の声は優ちゃんより低く、優ちゃんの声は私より高い…のに何故か私が頂いたのはト音記号で、優ちゃんはヘ音記号の物を持っている…これは単なる偶然?」
「……」
優ちゃんは何も言わずに黙っている。
「ブレスレットの記号が意味するところを、もし相手の人物と重ねて擬人化していたとしたら? …優ちゃん、あなた…」
「あ、あたしは、やぶきさんと違って想像力が豊かな方ではないので…」
「嘘! 優ちゃんは最初から解ってて私にト音記号の方をプレゼントしてくれたの! 恰もそれが、優ちゃんの分身だと言わんばかりに!!」
優ちゃんが東尋坊の岬で項垂れ膝を付いたようなイメージが浮かんだが恐らく気のせいだろう。
「優ちゃん、そこまで考えてプレゼントしてくれてありがとう!」
私は優ちゃんの手を取り感謝の意を伝える。
「やぶきさん、その、手、手を離して下さい」
「ごめんね、優ちゃんがあまりにも可愛いからつい♪」
私は優ちゃんの右手を両手で包み込むようにして握っていた。
「あの、その、嬉しいんですけど、その、すみません。本当にそこまで深くは考えてませんでした」
スンッ…と私の最高潮まで上がっていたテンションは一瞬で消失した。
「でも、喜んでくれて嬉しいです。えへ」
“可愛いは正義”とはよく言ったものだよ。
私は勝負には勝ったが、萌えには負けた…
今日も優ちゃんは可愛いです!
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