第16話

 そんな健介を一条は尚もじっと見詰めている。

(どうしてこんなに見てるんだろ…)

健介がそう思っていると、一条が不意に

「ご飯付いてるよ。」

と言いながら、スッと手を伸ばして健介の口元に付いていたご飯を取ったかと思うと、そのまま自分の口に運んでパクリと食べてしまった。

「え…」

健介は少し驚いた様に一条の顔を見た。

赤の他人にこんな事をされたのは初めてだった。

実の母親でさえ小学校低学年以来そんな事はしたことが無い。

「どうしたの?舐めれば良かった?」

一条がそう言った後で、少し小首を傾げて小さくニヤリと笑った。

「ぐふっ!」

その途端健介はむせそうになって咄嗟に口を押さえた。

すると一条は平然とした顔で、当たり前の様に健介の水筒のお茶をコップに注いで差し出した。

健介はそれを受け取ると一気に飲み干して

「有り難う」

と、一応に礼を言ったが、恥ずかしさで耳が真っ赤になっていた。

 一条はそんな健介の様子を見て

「健介おもしろ〜い。じゃあ、またね」

と言って自分の席に戻って行った。

(絶対、からかわれてる……)

健介は一条の後姿を見ながらそう思った。

 これまで健介は一条の雰囲気や立居振舞が明陽に似ていることから、明陽と同じ様な人間だと思っていた。

が、全然違っていた。

「はぁ〜」

健介は溜息を吐くと弁当の残りを掻き込んだ。




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