苦悶

完全なプライベート空間になっている機内の特別席で、食事を楽しみながらレアが話しかけた。

「うまくいったね!」

確かに。一時はどうなるかと思ったが、思わぬ展開と彼女の機転でこれからの不安まである程度一気に解消した。

高そうなワインを飲んで口を拭いてから

「君には大変な思いをさせてすまなかった」

とルイスは謝った。

「ぜーんぜん平気!私に羞恥心がないのは知ってるでしょ?あの男、変態行為が進めば進むほど不利になるのは分かってたから、面白かったよ」

彼女の目から強力な赤外線を発する機能はつけて置いた。種類も変えれるため、テレビのリモコンなんかの代わりにもなる。勿体なくてそんな使い方はしていないが。

 彼女自身には羞恥心はない。

だがルイスは、愛するレアの体が知らない男にその全てを見られたのが悔しかった。

どんなに重い罰を科せられてもその記憶までは消せない。

自分だけの大事な存在なんだという独占欲が、彼の心に影を落としていた。


「もう、あんな事はしないでくれよ。その…誰かに裸を見られたりするのは」

レアは少し不服そうな顔をした。

「なによ〜。私だって女性の係員が来ると思ってたし、それにあの展開になったから色々うまく言ったんじゃない」


十五、六の容姿の娘は、生きていた頃のレアそっくりの性格だ。ちょうど彼女もそのぐらいの年頃は負けん気が強くてよくケンカになったものだ。

まあ、目の前のアンドロイドほど知能は高くなかったから大抵自分の方が論破した。

あの頃の、口が立たない代わりに不貞腐れていたレアが懐かしい。


アンドロイド・レアは空気を変えるように

「でも、ありがとう。あなたがあの時私の体に金属がある事を咄嗟にひらめいてくれたから、これからは探知機に敏感になる必要も心配もないわ。大好きよ、パパ」

褒められて悪い気はしない。しかもこんなに若くて綺麗な女の子に言われて喜ばない男は居ないだろう。

だが。

自分がそういう設定で教え込んだのだが。

だんだんと、自分の中にも彼女を娘の様に思える瞬間が増えてきた。

本当はパートナーとして付き合っていきたかった。恋人同志が互いに愛し合って口づけを交わすように。

しかし今は、その行為もそれを望むことも何だか人として道を外れた事の様に思えるのだ。

決して結ばれない、交わってはならない関係を壊してしまう。そればかりか、自分の人格さえ蔑んでしまうような気持にもなる。


ルイスはレアという少女とこれからどう向き合っていくのか、悩み始めていた。

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