⑭真実の告白-2-







「それってつまり、お姉様が情夫を作ったらお姉様は無間地獄に落ちてアイドネウス様は怒りで国を滅ぼしちゃう・・・という解釈でいいのかしら?」


(え゛っ?俺が浮気したら神話時代の災害が起こってしまうのか!?いやいやいや!俺、浮気をする度胸なんぞこれっぽっちもないチキン野郎だって!!)


「逆に言えば【今まで通りの日常を送る事】が平和な世界の維持に繋がるという事なのね?」


「ああ。前も言ったけど、ミストレインはレンちゃんと共にアイテムを作ったり、素材の採取に世界各地を巡ったり、休みの日には買い出しに出掛けたりという風に過ごせばいいんだ」


 世界と星の維持という、実に大層な言葉が出た事で内心焦ってしまったミストレインであるが、アイドネウスの一言に安堵する。


「・・・お姉様はそれで良くても、私はどうすればいいのよ!!」


「アイドネウスが言っていたように、教師になればいいじゃない」


 教師は儲かる職業の一つであり、平民にとって花形である。


 しかもフローラはロードライト帝国にもミントグリーン王国にも戻れない身の上にある。エピメテスを育てる為にもフローラは平民として生きて糧を得るしかないのだ。


「嫌よ!!」


 母子のこれからを考えた上でミストレインが妹に働くように言うのだが、元王女で皇帝の母になるはずだった女というプライドがあるからなのか、平民に交じって働くのは嫌だとフローラは拒絶を示す。


「ねぇ、フローラ。今の貴女はどういう立場なのか、分かっている上で発言しているの?」


 ミントグリーン王国に戻っても王女として過ごせないし、ロードライト帝国に戻れば後宮の支配者であるカルロスの母親がいる。


 そんな場所で肩身の狭い思いをして暮らすなんて冗談じゃない!


 寧ろ全てを知っていながらそれを回避する努力をしなかったミストレインが責任を取って、自分達親子が死ぬまで面倒を見るべきだと、フローラは己の主張を曲げないでいる。


「フローラ。貴女のような人間の事を世間では何と言うか知っているかしら?ニート・・・貴女自身が何よりも嫌っている穀潰しって言うのよ」


 自分が助かる為だけに王女としての責務を放棄したミストレインには、フローラを責める権利はないのかも知れない。


 だが、ミントグリーン王国に居た頃の自分はギルドを通してではあるが、錬金術師として得た金銭の一部を税として納めていたのだ。


「こんな私でも一応ミントグリーン王国の国民としての義務は果たしていたのよ?それなのに、貴女は私を働かせて自分達の面倒を見させるなんて・・・・・・」


 フローラの主張にミストレインだけではなく、傍で三人の会話を黙って聞いていたマイアが溜め息を漏らす。


「ミストレイン、お前の妹は後宮という場所で贅沢三昧な日々を送っていたし、何より産んだ子供の世話は乳母が全てやってくれるという恵まれた環境にあったんだ。だから、お前の妹は自分で働いて子供を育てようという気にならないのだろうな・・・」


「後宮というのは閉鎖された場所ですが、アイドネウス様が仰るように皇帝のお手付きとなり御子を産めば全てが至れり尽くせりなのですよ」


 マイアがミストレインに後宮のシステムを教える。


「贅沢な暮らしを知ってしまった貧乏人が、元の生活に戻れないって感じなのね」


「元の生活に戻れないというより、親として成長していないという表現が正しいだろうな」


 何せ、お前の妹は我が子を権力の道具としか見ていない女だ


 利用価値が失くなったというより、元から自分の子供に情など抱いてないというアイドネウスの言葉に、フローラは図星だと言わんばかりに肩を震わせる。


「フローラ・・・」


 フローラにとってエピメテスとは、皇帝の母として権力を振るう為の駒であると同時に我が子でありながら仇の血を引いている存在でもあるのだろう。


 そのエピメテスに母としての愛情を抱けないというフローラの気持ちが分からないでもないが、彼には何の罪もない。


(それに・・・エピメテスをフローラの手元に置いておくのは、あの子の為にもならないような気がするのよね)


 どうすればいいかと、悩むミストレインにアイドネウスがある提案をする。



 ミストレインの妹の子供を自分達が引き取って育てればいいと──・・・。



「アイドネウス・・・いいの?」


 結婚して数年経っているのに子供が出来ないという理由で親戚の子供、或いは孤児院から子供を引き取る話は聞いた事があるが、自分達は新婚だ。


 結婚して間もないのに甥のエピメテスを引き取ってもいいのか?と、尋ねるミストレインにアイドネウスは構わないと答える。


「私に働けと言いつつ、心の奥底では私達親子の面倒を見るつもりだったのね」


 早速ですがお姉様、まずは皇帝の母になるはずだった私に相応しいドレスとアクセサリーを用意して頂戴


 ランチはそうね・・・フォアグラのソテーとシャトーブリアン、パンプキンスープ、食後のデザートはキャラメルソースをかけたアイスクリームのケーキがいいわ


「女、何を勘違いしている?」


((こ、恐い!!!))


 瞳の色が金色に変化したという事は、アイドネウスが怒っている事を示す。


 自分達に対して怒りを抱いている訳でもないのに天空神に恐怖を感じてミストレインとマイアが抱き合う中、殺気の籠った、底冷えする鋭い目つきでソファーに腰を下ろしているミストレインの妹を睨みつけた後、アイドネウスは平手ではなく握った拳でフローラを殴り飛ばす。


 今の衝撃でフローラの奥歯の何本かが抜けてしまっていた。


(リーベンデールの女として転生させる為だけに灯夜だった俺は殺されたけどさ・・・苦痛を感じないように気を遣ってくれたんだな・・・・・・)


(フローラ・・・あんた、ゲームではモブどころか名前しか出て来なかったじゃない!名前だけのモブがちゃんとキャラデザしているというか、アイドネウスの嫁さんとなったアストライアーを扱き使うって何考えてんの!?)


 あっ・・・元は何も考えないモブだからKYな発言が出来るのね


「俺達が引き取るのはお前の息子だけだ」


 お前は既に成人を迎えているから、俺達が養う義理と義務などない!


 今すぐ雑貨ショップ・ミストレインここから出て行けと言わんばかりに、口端から血を流して痛みで悲鳴を上げながら頬を押さえているフローラを掴んだアイドネウスは外へと放り出すのだった。







 ※元王女である事を買われてフローラは娼婦になったのですが、プライドが高いのが災いして風俗嬢へと転職しました。

 息子のエピメテスは養父母のおかげでまともに育ち、有名なフラワーアレンジメントになりました。






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