⑧ヒロイン・カサンドラ再び-3-







(これ・・・何て書いてるの?全然読めないし、書く事も出来ないわ!!ここは日本人が作った乙女ゲームの世界なんでしょ!!だったら日本語にするか、あたしに翻訳スキルを与えるべきでしょうが!!!)


 側室候補としてカルロスの後宮に入る事が決定しているカサンドラ。


 皇帝の側小姓に買われた女奴隷という理由だけで、彼女達はすぐに後宮入りするという訳ではない。


 後宮というのは皇帝に仕える女性達が集められている場所にして生活空間───簡単に言えば私室である。


 生活の場にいる時くらいは、日頃の政務や世間の煩わしさから解放されたいというのが人情ではないだろうか?


 心身共に疲れている皇帝を癒す為に一般教養だけではなく、詩歌管弦や舞踊といったあらゆるスキルを身に付けてから女達は後宮入りをするのだ。


(大体ね、ここはあたしが幸せになる為だけに造られた世界よ?!ヒロインを接待しない世界なんて有り得ないわ!!)


 カサンドラは世界そのものに対して心の中で愚痴を零す。


(それに、このおばさんもおばさんよ!)


「また貴女ですか・・・カサンドラ。歩く時は顎を引いて背筋を伸ばしなさい!」


(このクソ婆が!あたしが後宮に入って権力を握ったら、あんたなんか追い出してやるわ!!!)


 モブキャラの分際で自分の手を鞭で叩いた教育係の老女を憎悪の籠った瞳で睨みつける。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 自分の人生はベリーイージーモードであるはずなのに、気付かぬ内にハードモードになっている事をカサンドラが愚痴っている頃


「何と!灯夜くん以外に日本人の転生者が存在しておったとは・・・!」


 下界にいる、アイドネウスの未来の嫁がどうしているのかをティフォーネは定期的に盗み見しているのだが、リーベンデールの住人とは異なる魂のオーラを感じ取ったものだからロードライト帝国方面に視線を向けると、悪い意味で一際目を惹く存在があった。



『ヒロインであるあたしに対する仕打ちを知ったら、あたしを溺愛しているアイドネウス様が天罰を下すわよ!おいっ!そこのクソ婆!!謝るなら今の内よ!!!』



 ティフォーネの瞳に映るのは、結婚適齢期の少女達に文字の読み書きを教えている教師と思しき老齢の女性に対して怒鳴り散らしているピンク色の髪の少女の姿だった。


「灯夜くんの転生体であるアストライアーは人前では馬鹿王女を演じていたが、裏では文字の読み書きから常識を覚えるといった基本的な事だけではなく、リーベンデールで生き延びる為の術を学び錬金術師として逃亡資金を稼ぐ努力をしていたというのに・・・・・・」


 乳が小さいあの娘は文句を垂れているだけじゃのう・・・


 祖父として言わせて貰うが、儂の孫の本命は、嫁は灯夜くんの転生体だけじゃ!!


 お主のような人間を何と言ったかのぅ?・・・そうじゃ!電波じゃ!電波な小娘が孫の嫁になるなど、例え天地がひっくり返ろうがアイドネウスだけではなく儂を含む全ての神族が認めんわ!!!


 二人は地球、それも日本からの転生者であるというのに、何故こうも違いが出るのであろうか?


 ティフォーネは疑念を抱かずにいられないでいるのだった。





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