⑥ここは乙女ゲームの世界に非ず







「・・・アイドネウス、聞きたい事があるの」


「聞きたい事?」


「ええ。この世界・・・リーベンデールは、誰でも魔法が使えるから科学の代わりに魔法と科学が融合したような文明の利器があるのは俺・・・いや、私でも理解出来る」


 しかし!


 世界観が中世~近代ヨーロッパであるというのに、何故、寿司・天ぷら・すき焼き・焼き鳥・定食といった日本食だけではなく洋食屋中華やイタリアン等が当たり前のように存在している!?


 ここは異世界だけど日本人が作った【煌々たる愛】という乙女ゲームの世界だから、その辺りは深く考えたら負けという解釈でいいのか!?


 リーベンデールにアストライアーとして転生してからというもの、溜まりに溜まっていた疑問をアイドネウスにぶつける。


「灯夜・・・いや、今のお前の名前は「ミストレインよ「ミストレインは多元宇宙論と古代宇宙人説を知っているか?」


「多元宇宙論?確か、複数の宇宙の存在を仮定した理論物理学・・・簡単に言えば、パラレルワールドや自分達が存在している世界とは別次元にある世界という意味で、古代宇宙人説は神話に出てくる神の正体は何万年もの昔に別の銀河系から地球にやって来た宇宙人で遺伝子操作をして人類を作ったり、高度な文明を築いたというものだったような気がするのだけど──・・・」


 灯夜だった時に見聞きしたオカルト関係の情報を思い出しながら、ミストレインがアイドネウスの問いに答える。


「そうだ。リーベンデールここは乙女ゲームの世界ではなく、地球と似ている点はあるが異なる次元に存在する文明と文化が発達している現実の世界だ」


 神から見れば刹那。


 人間から見れば気が遠くなる程の昔に祖父であるティフォーネがリーベンデールという世界を創ったのだと、ホモサピエンスが存在していない頃に地球にやって来た自分達が不思議な力・・・魔法を使って伝説として残っている都市国家や神殿を建造したのだとアイドネウスが教える。


「もしかして・・・現在の地球に伝わる竜やフェンリルといった幻獣に魔法って、実はリーベンデールからやって来た神様達だったり・・・する、とか?」


「そういう事だ。それよりもミストレイン。何故、現実世界をゲームの世界だと思ったんだ?・・・・・・お前が言っていた【煌々たる愛】に原因があると思うのだが、それがどのようなゲームなのかを教えてくれないか?」


 このゲームをコンプリートするまでプレイした凛子であれば詳しく説明出来たかも知れないが、自分は彼女がプレイしていたところを見ていただけなので知っている範囲で良ければ・・・・・・と、前置きした上でアイドネウスに話す。



 ・煌々たる愛はR-18の乙女ゲームである


 ・ヒロインはちっぱいどころかぺたんこなカサンドラという村娘で、ロードライト帝国の皇帝であるカルロスの後宮に入るところから物語が始まる


 ・皇帝のカルロス、近衛騎士団長のギュスターヴ、宰相のエンディミオン、側小姓のゼフュロスが攻略対象者である


 ・カルロスには戦利品にしてミントグリーン王国の王女であるアストライアーという寵妃・・・つまり転生した自分、ギュスターヴにはエレクトラ、エンディミオンにはアルティミシア、ゼフュロスにはキャロラインという婚約者がいる


 ・攻略対象者共は天真爛漫なヒロインに心を寄せるようになる


 ・攻略対象者共の寵妃と婚約者は悪役令嬢と位置付けられている


 ・カルロスルートではヒロインが『カッターキャー』を自作自演して、悪役寵妃に位置付けられているアストライアーと彼女の息子であるプロメテスを陥れて二人を断頭台へと送る


 ・逆ハールートを目指している時に選択を間違えてしまうと、監禁エンド・凌辱エンド・輪姦エンド・飼育エンド・だるまエンド・薬漬けエンド・精神崩壊エンド・人形エンド・殺害エンド・食人エンドへと進んでしまう


 ・攻略対象者共のメンタルは、あの店で売っているプリンよりも柔い



「最後のそれ・・・どう考えても凛子ちゃんがプレイしていたところを見ていたミストレインの感想だよな!?メンタルがあの店で売っているプリンよりも柔いのにヤリ〇ンだから、貞淑な婚約者よりもヤリ〇ンなヒロインを選ぶのか!?」


 というより、ミストレイン。お前の転生体であるアストライアーが悪役寵妃とはどういう事だ?


「それはね──・・・」


 アストライアーはミントグリーン王国の王女という事もあるのか、側室候補としてカルロスの後宮に入った。


 言葉遣い・礼儀・仕種・気品だけではなく美貌と教養と人格を備えていた彼女はカルロスに愛されていただけではなく、プロメテスを産んだ事で寵妃として君臨していながらも決して驕らず、母后であるバレンシアにも実の母親のように仕えていた。


 だが、カサンドラがやって来てからというもの彼女の天真爛漫さと奔放さに心を奪われたカルロスは淑女として完璧なアストライアーを次第に疎むようになっただけではなく、ヒロインが自作自演した『カッターキャー』に乗じる形で彼女と息子であるプロメテスを処刑したのだと、ゲームにおけるアストライアーじぶんがどのような運命を歩むのかを教える。


「・・・・・・・・・・・・」


 国の中枢を担う野郎共が婚約者を捨ててビッチなチョロインを選ぶ神経が理解出来ないと思うと同時に、アストライアーの行く末を知ったアイドネウスは、アストライアーとして生まれ変わったミストレインがリーベンデールここを乙女ゲームの世界だと思っていた理由に納得していた。


「爺が灯夜を悪役寵妃とやらと同姓同名に転生させたからそう思ってしまったのも無理はないが・・・間違いなく、ここはゲームの世界ではなく地球とは異なる銀河系にある・・・日本人に分かるように言うとしたら異世界だ」


 ミストレインが精霊と契約しているという事自体が、何よりアストライアーがカルロスとやらの寵妃にならなかったという事実が、この世界が現実である事を物語っている証拠ではないのか?


「よ、良かった・・・」


 自分に変化させたウンディーネの分身をカルロスに殺させる事で『カッターキャー』なヒロインに関わらなくて済んだのだと、本当の意味で第二の人生を歩んでいるのだと思っていたのだが、ゲームの強制力やヒロイン補正が働くのではないか?という不安を心の奥底にずっと抱いていたミストレイン。


 そんな自分にアイドネウスが『ここは乙女ゲームの世界ではなく現実の世界』と力強く保障された事で緊張の糸が切れてしまったのか、ミストレインが大きな安堵の息を漏らす。









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