②ヒロイン・カサンドラ(前編)-1-







「ロビン君、ゴメンね・・・。あたしね、スプーンより重たいものを持った事がないの」


「カサンドラちゃんは可愛いから、ワインケースを持てなくて当然だよ。代わりに僕が運んでおくね」


「ありがとう♡ロビン君って優しいのね♡」


「ロビン!お前だけカサンドラちゃんの前でカッコつけるなんてズルいぞ!」


「カサンドラちゃん、薪は僕が拾ってくるよ」


「僕はカサンドラちゃんの代わりに畑を耕すからね」


「カサンドラの事をここまで想ってくれるなんて・・・。カサンドラ、嬉しい♡」


 きゃっ♡


 ロビン達からカサンドラと呼ばれているピンク色の髪をツインテールにしている少女が、愛くるしい顔に笑みを浮かべる。


「そんな三人の為に、カサンドラから特別にご褒美をあげちゃうぞ♡」


 チュッ♡


「「「カ、カサンドラちゃ~ん・・・♡♡♡」」」


 村長の娘であるソフィアよりも可愛い女の子の投げキッスに少年達は、推しのアイドルを前にしているファンのように目をハート型にして喜びを表していた。


「皆、お願いね♡」


 甘ったるい声でそう言ったカサンドラは、自分と同じ年頃の子供達や親と言っても差し支えのない夫婦達の苛立ちと蔑みの視線に気づいている。だが、彼女は敢えてそれらを無視して、近くの森を散歩しながら時間を潰す事にした。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







「あたしは【煌々たる愛】のヒロインで、後にアイドネウス様の妃・・・いうなれば女神になる存在なのよ!?」


 そのあたしが畑を耕したり、水仕事をしたり、薪を拾いに行ったりしたら手が荒れちゃうじゃないの!!


 ヒロインがそんな汚い手をしているなんて、あたしとアイドネウス様に対する侮辱以外の何者でもないわ!!


 し・か・も


 あいつ等、ゲームでは名前すら出て来ないモブの分際のくせに生意気なんだよ!!


 クソが!!!


 本来であれば親に言いつけられていた仕事の全てをロビン達に押し付けたカサンドラは、ゲームのヒロインにして天空神・アイドネウスにとって唯一の妃───未来の女神である自分に対して非難する視線を送っていた村人達の顔を思い浮かべてしまったのか、苛立ちを隠せなくなった彼女は般若のような形相で毒づいていた。


「所詮、村人は単なる村人でしかないから、何をしても許されるヒロインのあたしに嫉妬しちゃって当然と言えば当然なのよね~」


『これもヒロインとして生を受けた者の宿命なのね』と、カサンドラは悲劇のヒロインになりきっている。


「自分で言うのも何だけど・・・カサンドラって本当に美少女だわ♡」



 天使の輪があるピンク色の髪


 海のように青い大きな瞳


 象牙色の肌



「ゲームのカサンドラは胸がちっぱいどころかぺったんこでAAAカップだった。でも、それがどう?」


 まだ十三歳なのに、Aカップなのよ!


 食べ物に気を遣ったり、胸を大きくする為にマッサージをしたりするなど色々頑張った甲斐があったと、湖面に映る自分の姿を目にしながら色んなポーズを取っているカサンドラは自画自賛していた。


「あたしがアイドネウス様と結ばれる為には、何と言っても【山賊襲来】が起きないといけないのよね~」


 といっても【山賊襲来】はゲームの始まりを告げるムービーなので、カサンドラは何もしないで良かったりする。


「隠しキャラのアイドネウス様を出すのも大変だったし、攻略するのも物凄く難しかったわ~。でも、あの難易度も相手が神様だから当然なのかもね」


 自分が女神になるにはどうすればいいか?


 カサンドラは前世の自分がプレイしていた【煌々たる愛】のストーリーを思い出す。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る