第7話 とっさの判断
そう言うと,再びダビデは居合いの構えをした。
ユウタは,できれば氷結魔法の呪文を唱えたかった。しかし,魔法を詠唱していては,ダビデの猛攻を躱せない。このままでは,どのみちユウタの体力と集中力が先に尽きて,ダビデに一本取られてしまうだろう。
どうすればいい?
ダビデが,腰に刀を当て,抜刀術の構えをした。
ユウタは,ふと,過去に学校で習った魔法の高速詠唱のことを思い出した。
呪文の詠唱とは,そもそも,術者の魔力の流れを,使用する魔法に適した形に変化させるためにあるのだ。
つまり,自分の魔力の流れを自在に制御することができれば,呪文の詠唱は必要ないのだ。上級の魔術師は,得意とする魔法について,呪文を詠唱しないまま魔法を発動させることもあるという。
今,ユウタがダビデに一矢報いるためには,呪文を詠唱せず魔法を放つしかない。
ユウタは,今まで一度も,詠唱無しに魔法を唱えたことはなかった。
やってやる。
ユウタは,心の中で,氷結魔法を唱える際の魔力の流れをイメージしてみた。すると,確かに自分の身体を流れる魔力の流れが変化しているのを感じ取った。
ユウタは,そのまま言葉を発しないまま,右手を突き出した。
ダビデがまさにユウタに抜刀術を繰り出そうとした瞬間,ユウタは叫んだ。
「フリーズ!」
ユウタの手から放たれた冷気の塊が,一歩踏み出したダビデの右足に絡みついた。
冷気は,対象物に触れると,その場で周囲の地面と一緒に,ダビデの足を凍らせた。
詠唱無しでユウタが魔法を繰り出してくるとは思わなかったようで,さすがのダビデも慌てた様子だった。
「なんだ!これ!くそ!」
ダビデが足下に気を取られている間に,ユウタは一歩前に進み出た。
狙うのは,がら空きになっているダビデの頭上だった。
「やっ!」
ダビデの頭上めがけて,ユウタは勢いよく木刀を振り下ろした。
ユウタが振り下ろした木刀がダビデの頭上に振り下ろされるのを見届ける前に,ユウタは,一瞬,目の前が真っ暗になった。
次の瞬間,ユウタは地面に仰向けになって倒れていた。
握っていた木刀は手を離れ,1メートル先に転がっていた。
ユウタは,視界が真っ暗になった後,何が自分の身に起きているのか分からなかった。
辺りを見回し,ダビデが抜刀後に木刀を振り切った後の姿勢をしているのを見て,ようやく,ユウタは,自分がダビデの抜刀術を喰らったのだと理解した。
さっきまでのユウタは,ダビデの抜刀術に何とか反応できていた。しかし,今しがたは,ダビデは足下に気を取られ,ユウタの方を見ていなかった。
ダビデは,ユウタの居場所を視覚で捉えた瞬間に,ユウタの認識を上回る速度で木刀を振り抜いたということか。
ユウタが呆気に取られる中,ダビデがこちらに歩み寄ってきた。
そして,なんとユウタに手を差し伸べてきた。
ユウタが無言でその手に捕まると,ダビデはユウタを引っ張って起き上がらせた。
ダビデは,そのまま無言でユウタのズボンに付いた土埃を払った。
「ナイス反応だ。
私の一撃に反応できる者など,我が軍でもそうそういない。私の連続技に耐え抜いた反射神経も,初心者とは思えないほどのものだ。
最後の詠唱無しの魔法も,私が思わず足下に気を取られてしまった。君は,生まれながらに魔法使いより剣士の才能がありそうだ。
どうだ,我が軍に入らないか?給料こそ最初はそれほど多くはないが,毎月の生活が不安定な冒険者稼業よりは生活が安定するはずだ」
「は,はあ」
先ほどの猛攻で,ダビデはユウタの中に才能を見いだしたようだ。
ユウタも,正直,ダビデ相手にここまで自分が攻防戦を繰り広げられるとは思っていなかった。
最後にダビデが放った一撃については,太刀筋がまったく認識できなったが,それでも詠唱無しで魔法を使うこともでき,予想だにしていない戦い方をすることができてしまった。
ダビデが差し伸べた手に捕まって,ユウタは立ち上がった。
ダビデは,健闘の意を表すため,ユウタに握手を求めてきた。ユウタも,そのままがっちりとダビデの手を握り返そうとした。
しかし,手に力が入らない。
ユウタは,自分の身体がうまく動かせなくなってることに気付いた。
背中に,いやな汗が噴き出してくる。めまいがして,目がくらんできた。
ユウタの異変に気付いたダビデが,何かを叫んでいるが,はっきりと聞き取れない。
「○m○※a△□e●h×○d●!」
ユウタは,立っていられなくなり,倒れるように気を失った。
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