第10話 強すぎ負けヒロインとラブコメする話し(Ⅰ) 

「うるひゃい」

 部室の隅っこ。強過ぎ負けヒロイン「ドラゴン同輩」が泣いていた。

 床に直接体育座り。まんまるになって肩を振るわせている。


 人前では、雄々しく、凜々しく美しい。

「ドラゴン同輩の泣き顔。レアだな」

「うるひゃい! うるひゃい! うるひゃ~~~~い!!」


 可愛いお顔が涙でグチャグチャだ。カッコいいドラゴン同輩のとっても情けないお姿。地縛霊みたいでちょっと怖い。



「女の子の泣き顔をする。尾田栄一郎先生は天才なのだな」

 心からそう思う。

「尾田?」

「こちらの台詞だ」


 圧倒的美少女であるヒロイン。ヒロインの涙は愛らしさや庇護欲を刺激するように、可愛く魅せて描こうとする作者も多い。


 だが我が創造主マイマスターは「尾田先生は敢えて、可愛くない泣き顔にこだわった」としているとの事だ。


 理由は、ギャップで魅せるという事もあるだろう。だが、涙(泣く)という感情は、押さえ込まれていた強い感情や怒り、憎しみ、苦しみ、絶望が一気に吹き出る。


 感情の大爆発ビッグバン


 故に、そのキャラクターの本質を描くシーンとなるであろう。可愛らしく取り繕えば見透かされる。


 人の本質に嘘はつけない。キャラの叫び。届いているだろうか?



 因みに我が創造主マイマスターはメリー号との別れのシーンが印象的だったと思っている。それは、当時の全キャラが絡んだシーンだったから。


 諸兄の中にも推しの号泣シーンがあると思う。

 是非「応援コメント欄」に♡添えて書き込んで欲しい。


 さて「ドラゴン同輩」が泣いている理由。決闘に負けたから。


 負けると泣く、カッコ悪くて子供っぽい。


「ズズ……」

 鼻を啜る。みっともない。カッコ良く、強い。ダンジョン学園最強、竜の姫騎士が鼻水垂らして泣いている。



 ……俺しか知らない秘密だ。



「ふう~~何回目だ?」

「初めてだっ!!」


 俺ジト目。

「うそぉー?」 


「…………今月はだ、今月」

「ハイハイ。毎回負ける、学習能力ダチョウ並みなんじゃね」


「うるひゃい!! まだ負けていない!!」

 俺はドラゴン同輩が若干アホだと最近知った。


 ******


 ドラゴン同輩は強すぎ負けヒロインである。


 剣の腕は超一流、学業も極めて優秀。この国の将来を担う上位100人の中でも、序列二位をキープし続ける。

 三大勢力「九龍宮クーロン」のリーダー。


 容姿も前回描写したとおり、美人ばかりのダンジョン学園でも更に一際目立つ、超絶完璧美少女。


 だが……


 黒皇に決闘を挑み、敗北し続け。俺の部室に来て泣きわめく。


 そんな日常が続いてた。


 ひとしきり泣くと落ち着きを取り戻す。


「プリン食うか」

「うん」

 

 コンビニスイーツのプリンを差し出すと、野生サルの様にひったくる。

「おいひい」

 餌付けをすると機嫌が直る。とてもわかりやすい。


「黒皇ってそんな強いんですか?」

「ああ……強い!! だけど、本当の強さは……多分剣の強さではない……剣ならばわたくしは、誰にも負けない」


 確かに、姫騎士ドラゴン同輩。その強さは認めねばなるまい。


「……でも、常に負け続けるのは同輩自身に問題アリだとおもうのですけどね」

「五月蠅い!!」

 ドラゴン同輩、可愛い顔で俺を睨んだ。


 調子が戻ったようだ。


 ドラゴン同輩、床から立ち上がると、近づき、俺の隣にストンと座った。

 

 距離が近い。ほぼ密着。部室が狭いから……ではないはずなのだが……良い匂いがする。真横から見ても、超絶可愛い。


 だが、コイツで☆☆☆EXCELLENTするのは……


「はぁ~」

 ドラゴン同輩、机に突っ伏す溜息。

「疲れた。お茶」

「自分で入れろ!」


 わが部室でのドラゴン同輩、ちょっとだらしない。リラックスしていると前向きに解釈しよう。


 ゴホン、諸兄もお気づきだと思う、ドラゴン同輩にとって『決闘に勝利=告白に成功』という思考回路になっている。


 そして毎回、敗北する。

 理由は簡単。


「何故か、奴と対峙すると……緊張し、上手く動けなくなる。心臓が高鳴る。これでは上手く戦う事が出来ない」


 この時点でかなり残念な奴だ。

「……で?」 


「黒皇に見つめられると、身体が熱くなって、力が抜けてしまう。モブよ、黒皇は恐るべき能力者だぞ!」

「同輩はバカですか」


「失敬な! 成績は常にトップクラスだぞ」

 ちょっとズレたお嬢様。


 もう、黒皇に完璧ホレてますよね。


 ……だが、黒皇には秘められた能力があることだけは正解だ。後の話しで説明せねばならぬだろう。


「それはただ、好きな人に見つめられればドキドキするっていう事ですよ」

「たわけ! わたくしは好きになってなどおらぬわ!!」


 ドラゴン同輩、強く否定。


「……だが、黒皇が、頭を下げて、礼を尽し、どうしてもと言うのであれば、ほんの僅か、一ミリくらいは考えてやらなくもないがな」

 ドラゴン同輩鼻息荒い。

「ドコの「かぐや様は告らせたい」ですか」


 ふう~溜息がでる。


「で、どうするんですか?」

「わたくしは、黒皇がどの様な能力を用い、わたくしの身体に影響を与えるのか、秘密をを探らねばなりません」


「いやいや、他の「負けヒロイン」みたいに正攻法で迫れば良いだけですよね?」

「正攻法? わたくしは何時も正々堂々、正面から敵をねじ伏せておるぞ」


 はぁ~~~~っ、深い溜息。


「いいか、ドラゴン同輩」

「うむ、何処からでもかかって参れ」


「戦うと言っても剣を交えるわけではない」

「勉学か? それとも礼儀作法か? 何でも受けて立つぞ!!」

「バカか! 魅力ですよ! ミ・リ・ョ・ク」


「魅力?? とな」

 ドラゴン同輩首をかしげる。


 どうやら、このアホを調教……ゴホン、ゴホン……教育、ラブコメ的指導をせねばなるまい。



 さて「同輩キャラ」。即ち同級生ヒロイン。基本的にはメインキャラを中心にサブキャラ、チョイキャラに至るまで主人公にとって家族や幼馴染などを除き、最も身近なヒロイン群。


 関係性も様々、単なるクラスメート、学園最高の美少女、或は目立たない地味キャラ。年齢が同じと言う事は「同じ学校」「同じクラス」であることが多い。


 幼稚園から、仕事先まで、「クラスメート(同僚)」は最も身近な女子である。


 席が隣になる等、最初から「コイツがメインヒロインなっ!」と半ば強制されているような描写もされる。


 席替えが大イベントとなるラブコメも良くあるシチュエーション。


 ともかく、バリエーションが豊富なのか「同級生」キャラである。


 また、最も「メインヒロイン」の立ち位置となるのも「同級生」である。先輩や後輩より半歩……一歩、主人公に近い存在。


 諸兄は「同級生キャラ」「同級生ヒロイン」といったらどんなキャラを思い浮かべただろうか? 是非「応援コメント欄」に♡を添えて書き込んでほしい。



「魅力的に思われる、黒皇を魅了すれば良いのです。サキュバスちゃん先輩はとっても可愛いでしょう、抱きしめたくなるでしょう」

 サキュバスちゃん先輩の可愛らしさは女子にも十二分に通用する。


「……うむ、確かに」

 負けヒロイン三人。部室で会うことが多く、同じ女子、同じ黒皇攻略を目指す同士でもある。仲は良好だ。


「それが「魅了」。ドラゴン同輩は黒皇に魅了されているのですよ」

 ドラゴン同輩腕組み、考え込む。

「私は黒皇に頬ずりしたいとは思わぬぞ、しかも相手は男子だぞ」


「ふう、オーガ後輩がよく読んでいる、BLマンガ。男子同士であんなことや、こんなこと、してるでしょう。読んだことあるでしょう」


「成程、モブがよく読んでいる。女子同士であんなことや、こんなことをするマンガも同じということか」

 さらっと、俺の性癖をバラばらさないでくれないかなっ!


「たしかに、「魅了」とは恐るべき能力スキルであることは確かなようだ」

「技じゃねえよ」


 とはいえ、RPGでは魅了チャームという能力が存在しているのも事実。


 何か確信めいた表情、ドラゴン同輩は明るさと自信を取り取り戻した。

「わたくしも「魅了」を習得すれば黒皇やつを打倒できる!!」


「……となれば、早速「魅了」を会得ねなばなるまい!!」


 ドラゴン同輩、笑顔で俺の方に振り向いた。俺ジト目。

「ドラゴン同輩、「魅了」とは何か、わかるのか?」


「今調べる」

 昨今はAIが何でも教えてくれる


 魅了とは……検索、検索。


「フムフム、なるほど。オーガさんやサキュバスちゃん殿を参考にすれば良いみたいだ。ふむ、早速試してみるか……ついて参れ」

「嫌な予感しかしないんですけど」


 俺と、ドラゴン同輩は誰もいない校舎裏へ。

「これを持て」


 ドラゴン同輩、木剣を差し出した。


「さぁ、存分に打ち込んでまいれ!!」

「絶対意味取り違えている!!」


 はぁ~やっぱ間違っていた。


「魅了と剣技を組み合わせる。我ながら天才だと思うぞ」

 自信満々。

「人はね~、それをおバカと呼称するのですよ」


 俺は木剣でドラゴン同輩に攻撃を仕掛ける。ひらりと躱すドラゴン同輩、その表情アイドルのようにキラキラな表情とポーズ。

「どうだ! 魅了されただろう!! どうだ!! どうだ!!」


「…………」


 剣技と可愛いをごちゃ混ぜにする。確かに、所々オーガ後輩やサキュバスちゃん先輩を参考にした可愛い動き、元々美少女なのだから可愛いのは当たり前。だが。


 剣を振るいながらのグラビア撮影状態。


「同輩よ……アホにしか見えんぞ」 


 剣を振るったあと、わざとらしい可愛いポーズ。完全に間違っている。


 だが、打ち込まれる剣の威力は衰えていない、鋭い斬撃が繰り出される。

「おっと」

 俺がギリギリで剣を躱す。


「どうした、逃げるばかりか?」

 可愛いポーズを交え、ふざけた剣法で攻撃してくるドラゴン同輩、でも強い。


「全然魅了されないぞ!!」

「なにぃ!!」

 二、三度剣を斬り結ぶ。


「まったく、俺は戦闘力0という設定なのだから、バトルシーンはNGなの」

 剣と剣が交錯する。


 俺とドラゴン同輩。剣と剣で押し合いながら……


「残念ながら、全然魅了されない」

「ムム……魅了を習得するのは難しの」

 落ち込むドラゴン同輩。おれは一旦飛び退く。


 再び対峙。


「簡単だ!!」


 俺は木剣を投げ捨て、ドラゴン同輩の目の前に歩み寄る。その距離は近い。

「な、何を」


 俺はジィーーーーッとドラゴン同輩を見つめる。恋人同士の距離。

「…………えっ、あの……」

 俺を見つめ返すドラゴン同輩。困惑が混じる。


 俺はドラゴン同輩の左手を強く握りしめた。

「これがだ!」


「あっ……」

 心の底から衝撃が走ったようだ、ドラゴン同輩の手から木剣が滑り落ちた。


「ハイ負け、チョロイン確定」

 俺はニヤリと笑う。


「クッ!」

 顔が引きずり、涙目になる。

「クッ!! コロセ!! ……だろ。ちょっと古いけど」


 勝利の美酒に酔っぱらいながら、俺は部室に戻ろうとする。

「また負けていない! 勝負はこれからだ!!」


 いきなり俺に頭突き。

 その衝撃は想定外の威力。


「いてぇ~~~~」

「つう~~~~」


 あまりの痛さ、二人で頭を抱えた。


 ホント、おバカな負けヒロインだ。


 …………だけど。


 ******


 翌日、部室に向かう俺。

「待っていたぞ」


 ドラゴン同輩が俺を待っていた。

「今日はヤケに早いな」


 ドラゴン同輩俺に歩み寄る、そのまま両手を握った。

「な!」

 ジッと俺を見つめる。微笑み、可愛い。


 動揺する俺。

「昨日のリベンジだ、どうだい? されただろう」

「あっ……ああ」


 元のスペックが激高ゆえ、異性を魅了するのは簡単だ。


「やったぁーー、大勝利」

 屈託の無い笑顔、こういう所はマジ可愛い。ピョンピョン跳ね全身で喜ぶ。


「プライド塊みたいな同輩が、なんで黒皇と……」

 俺はドラゴン同輩に黒皇との出逢い話しを質問した。


 ******


「決闘?」

「ああ、決闘だ」


「やはり決闘ですか」

「うむ」


 直接の理由は黒皇と密かに「決闘」したときに遡るとの話し。

「高等部に進学してから暫くして」


 伏魔殿パンデモニウム九龍宮クーロンで諍いが発生したらしいとの事。何でも九龍宮にスパイを送り込んで工作していたとか何とか。


「証拠は出なかった……だが、わたくしは納得出来なかった。戦うならば正々堂々、剣でも勉学でも戦わねばならぬ!!」

 流石は戦う事が大好き武闘派集団「九龍宮クーロン」の姫君だな。


「だが、結果「勝利こそ全て」というのが伏魔殿パンデモニウムの連中。スパイ活動や裏工作なんて、奴等の常套手段、何時も事でしょう」

「わたくしは「黒皇」がそのようなことをする男には見えなかった……」


 ふん、黒皇って……マジにムカつく奴だぜ。


「それで、密かに決闘することにしたと……」

 ドラゴン同輩は頷いた。



 人気ひとけの無い公園。ドラゴン同輩は黒皇は二人きりで決闘。


「黒皇は強かった……」

 学園最強の姫騎士、ドラゴン同輩と互角に戦える。序列一位の黒皇、剣の腕もその辺のザコとは格が違う。


「わたくしも強敵との戦い、心が躍った」

 ホント、バトル脳なんだから。


「暫く斬り結んだ後……」


 黒皇は不敵な笑みを浮かべた。

「君は強い、僕が奥の手を使わねばならぬほどに……」


 その時、何かが起きたらしい。 


「その後の事は、良く覚えていない……」

「まるで負けるべくして、負けてしまったって事ですか?」

 ドラゴン同輩は頷いた。


「確かに、魅了とは違うかもしれないけれど、黒皇には何か、得体の知れない能力があるのかも知れませんね」

「うむ、それが解らねばわたくしは黒皇に勝つ事は出来ぬ」


「そして、わたくしは……負けた」

 俯くドラゴン同輩。


「だが、わたくしが負けたことを何故か黒皇は秘密にしてくれた」

「なるほど、勝利至上主義の伏魔殿のやり方ではないな」


「その後、何度も決闘を申し込み、わたくしは負け続けた。それでも」

「まぁ「姫騎士は負けた奴に惚れる」ってパターンですね」

「惚れておらん!!」


 そこは頑なかたくな


「成程、大体の事情はわかりました。やはりドラゴン同輩は、正攻法が一番魅力的だとおもうけどな」

 俺は笑った。



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