ファンタジーな異世界で俺だけ工業ゲーをしている件について
ランプ関数
第1話 よくあるお話
ガチン。ツルハシと鉱石がぶつかり、火花を散らす。
「おお、筋がいいじゃねえか坊主」
ガテン系のおっさんがそう褒める。鉱石を砕くのが前世では考えられないほど楽なのは、ひとえに俺の”
「ありがとうございますっ、所でっ、少しこの鉱石っ、貰ってもっ!?」
「屑鉱石で良いなら幾らでもやるけどよ……っと、危ねえぞおいっ!」
おっさんが俺のツルハシを横から押す、と、当然の帰結として横の岩に突き刺さった。
「わっ、えっ」
「岩肌はちゃんと見る事だ、足潰す趣味がなけりゃな」
本当だ。崩れた岩は、丁度刃を俺の足に送り届けるかのように斜めになっている。
いくら掘る能力が増したとはいえ、防御力は並以下。足に大穴が空いていたかもしれない。
「あ、ありがとうございます」
「例はいい、それより覚える事に専念しな」
「うす!」
そう返事をしつつ、ツルハシを慎重に振る。
……えー、どうしてこうなったかなぁ。
─────────────────
令和六年の十月と二十三日、ウクライナ侵攻だのポリコレだの表現弾圧だのAIだのとネットは今日も元気であり、リアルに目を向ければ秋の行楽シーズンも終わりに差し掛かかろうかという頃合いだ。
が、しかし、かく言う俺は全ての喧騒から解き放たれていた。
「うっし星系外縁まで来たっ!世界タイムとの差は……げっ、三十時間!?バケモンだろ……」
そう、来たる二十一日、かの有名な工業ゲー“the factory”の大規模DLCが公開されたのだ。当然、呑気にピクニックなぞやっている場合ではない。寝ている場合ですらない。トイレには……いや、この話はよそう。
兎も角、俺はさっくり56時間は画面の前に張り付いていた事になる。
「流石に飯でも食うか……」
アドレナリンだのドーパミンだのが切れた結果、どっと押し寄せる疲労感。これは直ぐに胃にゼリーでも入れねばならんと席を立とうとした、その時。
:心象風景に接続しました
「あ?何だこのツリー」
見ると、奇妙な通知。それと共に、ゲームクリア後の技術ツリーに、一つの進捗が増えていた。
《Go to the another sky》
達成条件はただ一つ、
「何だこりゃ」
とりあえず、ネットで調べてみる……が、何もヒットしない。redditのスレに書き込んでみたが、やはり釣りを疑われた。
「……イースターエッグ」
僅かに脳がフリーズし、それからカッと火が灯った。
「技術ツリーは?まさかこれだけじゃねえよな?」
探すと、やはりあった。《情報燃料炉》《量子演算機》そして……《再構成ドライブ》
「んだよこれ、10
けど
「……けど、良いよ……、やってやろうじゃねえか」
笑いながらそう呟く。工場長は神の思し召しなんて物を信じないが、しかし物事にはそうなる理由がある。
世界でただ一人俺だけが知っている、その訳は、俺が何を成すのかは、わからない
「あーもー、惑星表面で使ってたんじゃ埒があかねえ」
「ダイソンスフィア……って、これ中間設備かよ!」
「マスドライバーの輸送がボトルネック?んな馬鹿な……マジだ」
「……これでっ、終わりっ!!」
気合いを込めてエンターキーを押すと、画面に映るパイプの中を次々に反物質のグラフィックが満たして行く。最後に中心のワープコアに注ぎ込まれると、甲高い音と共に船が起動した。
「来たっ!」
ワープコアのGUIを開き、プロセスの開始をクリックする。と、船の周りの空間が歪むような描写の後、最終確認が現れた。それは良い、それは良くて、問題はきっと俺の方にあるのだろう。
:今の生活に未練はありますか?
多分、暫くはこの星系に帰って来れないぞと言う警告を直訳しただけなのだろう。が、俺は思わず当たりを見回した。散乱したカップ麺、それに下敷きにされた大学の教科書、と、かつての家族写真。先ほどピクニックに行く暇がないみたいみたいな事を言ったが、アレは正しくない。
暇もないが、機会もない。
友人も、彼女も当然居ない。
「……あるかよ」
吐き捨てるようにエンターキーを叩く。たちまちに船は進みだし、輝かしいエフェクトと共に瞬く間に超空間に突入した。
「はーぁ、とりあえずまとめの報告だけツイに上げて、あとトリガーも特定しない……とっ!?」
ふと見ると、身体の周りに光り輝く何かがある。いや、正確には、画面からエフェクトが飛び出してきてるのだ。
「ホログラム!?いや、それより──」
:あなたは成し遂げた
:魂の方舟は正しく起動した
「方舟っ、て、何だよこれ!?」
:あなたには権能がある
:
:私たちは祝福する
「何だっ、体が、落ちてっ……」
:貴方の旅路を
:貴方がこれから作る全てを
:貴方がこれから出会う全てを
:はじめまして
意識という名の長いトンネルを抜けると、そこはファンタジーだった。
というか、石造りの建造物にローブを纏い謎の杖を持ったおっさんが押し込められているこの状況をそうとしか形容できなかった。
いや、どゆこと?
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