天蓋が落ちた日——それは終焉の始まりだった。

トリコチロマニア

序章 『空』の崩壊

『空』が落ちた日


ある日『空』が落ちた。



空なんてものはそこに物体として存在することなどないはずなのに。


いつも見上げればそこにある空にポッカリと大きな穴が空いていた。


天から崩れ落ちた『空』のカケラが都市を、高層ビル群を薙ぎ払っていく。


空に届かんと言わんばかりに高くそびえ立っていた建造物は落ちてくる『空』のカケラによって土煙と化していった。


『空』が自らに届かんとした不届きものを払い除けたのだろうか。


ビルと並ぶような巨大な『空』のカケラ。


果てまた、拳大ほどの小さな『空』のカケラまで、大小さまざまなそれらすべてが、一様に人類を滅さんと言わんばかりに大地へと降り注いだ。


多くの人々が逃げ惑う間すらなく、押し潰された。


運良く直撃を逃れた人々も巻き上がった粉塵に視界を奪われ、何もできぬまま、飛散した建造物の瓦礫にその身を押し潰されることとなった。



裁きの日。


後に、『空』に恐れ慄いた人類にこの日はそう呼ばれることとなる。


あまりの人類の傲慢さに『空』が愛想を尽かし、怒りを人類に振りかざしたのだと。


この日、人類はその数を大きく減らし、生存圏を大幅に縮小することとなる。


土煙が晴れ、命からがら生き残った人々の目に映ったのは赤く滲んだ瓦礫、原型をとどめていない肉塊など凄惨な光景だった。


あまりに急な出来事に、生き残った人々は悲しむことすら出来ずにただその場に立ち尽くすことしかできなかった。


突然の災厄に、見舞われながらも何とか生き残ることができた人々の中に、崩れ落ちた『空』の裂け目から溢れ落ちる黒い大気に次なる災厄を見いだせた人は存在したのだろうか。

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