第5話 真っ白な子犬を拾いました

「あらまぁ…」


用事から帰ってきたお母さんに、子犬を拾ったことを報告した。こういうのは黙っていると、バレた時にとーーーーーーーーーーーーーーーーーっっても怒られるからね!


見せた時に『捨ててきなさい』と言われるのも覚悟していたんだけど、お母さんは意外にも捨てなさいとは言わなかった。たぶん、怪我をして今にも死んでしまいそうな小さな子犬を見てそんな酷いこと言えなかったんだと思う。あと、ライムが『わんわ(犬)…たーい(痛い)』って目をウルウルさせて心配そうにしてたのもあると思う。


問題はお父さんなんだけど『ちゃんと世話しろよ』としか言わなかったし、怪我が治るまで自分の部屋に寝かせたいって言ったら、調理場に入ってこないなら何処にいても良いって言ってくれた。嬉しくて思わず抱きついたら『暑苦しい』と言われたけど、お耳は真っ赤になっていたよ。お母さんはずっとニコニコとしていた。


ベッドの隅に子犬用のスペースを作る。ワタシのベッドは古くなって宿の部屋で使うにはちょっと…というものをお父さんが直してくれたもの。元々が外から来る冒険者用に大きいサイズで作ってあるから、ワタシのお部屋の半分くらいあるんだよ、大きすぎるよね。


倉庫から使っていない箱と布を持ってきて枕元に置き、そこに子犬を寝かせて様子をうかがう。呼吸は…うん、お腹は動いてるから大丈夫みたい。怪我の所はさっき軟膏を塗ったばかりだから触らずに。そっと撫でると、すごいツルツルスベスベで柔らかな毛がモフモフっとしている。んんんんんん、抱っこして頬ずりしたい!!!!けど、怪我してるからね。


目が覚めてお腹が空いた時用に餌を用意しないと。そう思って、お酒を飲んでたお父さんに聞いてみると『野菜クズを煮たやつがある』だって。お母さんに聞いたら、子犬を拾ったって聞いてすぐに用意しておいてくれたみたい。…もしかして、お父さん犬好きだったのかな?


まだ子犬は起きないから、それはそのまま冷蔵庫に入れておく。この冷蔵庫は王都で働くカイト兄ちゃんが贈ってくれたもの。カイト兄ちゃんの職場は王都の有名な料理店で、そのお店で使っていた冷蔵庫を安く譲ってもらったんだって。少し古い型だけど、まだまだ余裕で使えるし料理店では小さくて使い勝手が悪くてもお客さんの少ない我が家では余裕のサイズ。冷蔵庫の燃料となる氷の魔石は冒険者をしているレヴィ姉ちゃんとルヴィ兄ちゃんが定期的に送ってきてくれるんだ。


妹のマレは『聖女』のスキルを取得してから王都の教会で暮らしている。年に1回しか会えなくてとっても淋しいけど、兄ちゃんや姉ちゃんは定期的に会いに行ってるんだって。羨ましいな。ワタシは毎日どんな事があったか書き溜めたものを月に1回送っている。普通のお手紙や荷物は途中で無くなってしまうことがあるんだけど、教会宛のものは教会に頼むと確実に届けてもらえるんだよ。そして、子犬に使った傷薬はマレが聖女の修行で作れるようになった軟膏で、手紙の返事と一緒に定期的に送ってくれるんだ。そのうち会いに行きたいな。


ちなみに、兄ちゃん達が送ってくる荷物は、顔馴染みの商人さんが持ってきてくれる。大きな商会の商人さんで、何故か大宿じゃなくうちの宿に泊まってくれるんだよね。商人さんが言うには『この宿の快適さは王都の貴族専用宿よりも上です』って言ってたけど、商人さんがそんな宿に泊まれるわけないから『はいはい』って聞き流してる。お世辞を言うならもっと上手いこと言わないとダメだと思うんだけどな。


そんな事をつらつらと考えているうちにまぶたが重くなってきた。欠伸をしてから子犬を撫で、毛布を被っておやすみなさい。


明日には目を覚ましてるといいな。

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