『ひつじや』へようこそ!〜『快眠』スキルで皆を癒します!〜

高井真悠

第1話 使えないスキル

「貴女のスキルは…『快眠』です」


その瞬間、私の輝く未来が閉ざされた。


* * * * * * *


ハーシバル王国西部にあるウェリントン領ラドラ地方にある小さな町フーギ。その小さな町の外れにある宿屋『ひつじや』がワタシの家だ。


フーギには大きな宿屋『金の靴紐亭』があって、町を訪れる冒険者や商人は殆どがそっちを利用する。なので、我が家は常にお客さんが居なくて廃業寸前なのだ。


お父さんは、家がそんな状態なのに料理一筋で調理場に籠もってしまい客寄せとかには無関心。宿の主人がそんな感じなので、余計にお客さんが来ないという悪循環。仕方がないので、長女のレヴィ姉ちゃんと次男のルヴィ兄ちゃんが冒険者として外で働いて、家に仕送りをしてくれている。長男のカイト兄ちゃんは料理人の修行で王都へ行っているし、教会に預けられた妹のマレは6歳、弟のライムは1歳。つまり、次女で10歳のワタシが一番頑張らないといけない。


それなのに、ワタシが5歳の『祝福の儀』で授かったのは『快眠』という何の役にも立たないスキル。ちなみに、カイト兄ちゃんは『料理人』レヴィ姉ちゃんは『剣聖』ルヴィ兄ちゃんは『賢者』、妹のマレは『聖女』というとっても凄いスキルを授かっている。


国民全員が受けなければならない『祝福の儀』は、誰もが必ず何かのスキルを女神様から授けられる。大抵はその人が得意なものに関するスキルなんだけど、ワタシの場合はって呼ばれる何の役にも立ちそうにないスキルだった。


正直泣いた。めちゃくちゃ泣いた。


ワタシもお姉ちゃんみたいに、すごいスキル貰って冒険者になるんだ!って思ってたのに。一番下の弟はまだスキルを授かる年齢じゃないけど、他の兄弟達がとても珍しいスキルを授かっているからか、周りの人達はワタシの事を『出来損ない』とか『残りカス』とか『拾い子』とか影で言っていた。


それでも、どれだけ悲しくても、お腹は空くしベッドに入れば朝までぐっすり眠れる。そのお陰かは分からないけど、ワタシはすこぶる元気だ。


なので、子育て中のお母さんに代わって宿のお手伝いをしている。


例えお客さんは泊まらなくても、毎日客室を綺麗にしていつでも使えるようにしている。お父さんは無駄だと言うけれど、いきなりたくさんの人が来るかもしれないじゃん?だから、窓を開けて机を拭いて床を掃除してベッドの藁を混ぜてフカフカにしておく。


シーツ類はお客さんが泊まる時に渡す事になっているから、シミや汚れがないか確認して定期的に洗っている。


宿に併設された食堂には常連さんが来るから、その人達がお昼を食べに来るまでに掃除を済ませておく。そのまま食堂の調理場で野菜を洗ったり皮を剥いたりして、お客さんがきたら注文を取る。給仕をしながらお皿を洗い最後のお客さんを見送ったら、食堂内を軽く掃除する。全部片付いたら庭にある畑へ行って草取りや間引き。必要なら肥料をやったり季節に合わせて種を蒔いたり土を起こしたり。


それから弟と遊び、朝から教会で聖女になるための勉強をしている妹を迎えに行く。お父さんは食堂で調理をするだけで後はお酒を飲んでるし、お母さんは弟の世話をしながら宿の帳簿をつけたり内職をしたり。


そんな毎日だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る